10/3/2024, 5:29:38 PM
巡り会えたら
よく晴れた昼下がり。見上げれば胸がすくような青空。
大きく息を吸い込むと、僕はこの青空に似合わない、灰色の背中に別れの言葉を投げつけて、大袈裟に手を振った。
「元気でなっ!」
「…」
「もう変なところに入り込んで嵌ったりするなよ!」
「…」
もちろん返事はない。
「……」
…いや、もしかしたらふりふりと左右に揺れているあの尻尾こそが、返事の代わりなのかもしれない。
見知らぬ土地、見知らぬ風景、そして見知らぬ猫。
猫から見れば僕も見知らぬ人間。
浮草のように所在なく旅を続ける僕だから、もうここには二度と来ないかもしれない。もし再び訪れたとしても、少し青みがかった灰色の毛並みを持つ君とは、もう二度と出会えないかもしれない。
幾度となく出会いと別れを繰り返し、もう惜しむ心も見失っていたはずなのに。
なのにーーー・・・
もうほとんど見えなくなった背中に向けて、そっと呟いた。
「また、巡り会えたら…」
なんて、そう思うんだ。
10/2/2024, 6:05:38 PM
奇跡をもう一度
この世に生まれて、貴方と出会えて、共に生きて来たこの時間を、奇跡と呼ばずして何と呼ぶ。
その生を全うし、今、心臓の鼓動を止めようとしている私は、切に願う。
貴方と共に生きる奇跡を、もう一度。
手を取り共に歩く奇跡を、もう一度。
願いながらそっと目を閉じた。