巡り会えたら
よく晴れた昼下がり。見上げれば胸がすくような青空。
大きく息を吸い込むと、僕はこの青空に似合わない、灰色の背中に別れの言葉を投げつけて、大袈裟に手を振った。
「元気でなっ!」
「…」
「もう変なところに入り込んで嵌ったりするなよ!」
「…」
もちろん返事はない。
「……」
…いや、もしかしたらふりふりと左右に揺れているあの尻尾こそが、返事の代わりなのかもしれない。
見知らぬ土地、見知らぬ風景、そして見知らぬ猫。
猫から見れば僕も見知らぬ人間。
浮草のように所在なく旅を続ける僕だから、もうここには二度と来ないかもしれない。もし再び訪れたとしても、少し青みがかった灰色の毛並みを持つ君とは、もう二度と出会えないかもしれない。
幾度となく出会いと別れを繰り返し、もう惜しむ心も見失っていたはずなのに。
なのにーーー・・・
もうほとんど見えなくなった背中に向けて、そっと呟いた。
「また、巡り会えたら…」
なんて、そう思うんだ。
10/3/2024, 5:29:38 PM