【空蝉】(うつせみ)
苦し紛れに呟いてしまった
なにか言葉を当てたくて
このふわりと漂う感情に正解と言わんばかりの言葉を
当てはめてしまいたくて、
それがどんなに酷い言葉かだったなんて
全てを吐き出してから気がついた。
僕にとっては希望のような言葉でも
受け取る君にとっては絶望となる。
そこまで思慮深くいられるほど、今の僕には余裕が
無かった。
君が居なくなった部屋は途端に冷気を帯びて
暗澹(あんたん)立ち込める。
容赦の無い独りの寂しさを今君も味わって居るのだろうか。
この前会った時は僕は確かシーツを汚してしまって
君をとても驚かせたね。
この空間は白がとても多くて嫌になる
僕の左に並べられた器機達の電子音だけが聞こえてくる。
入ってくる人達の笑顔の奥には憐れみがある気がする
僕はきっと、今年の蝉の声を聞くことは出来ないかな
ぼんやりそう思う。
暗くなっているのは今朝の君の顔がどうしても浮かんでしまうからだ
器機達がけたたましい音をあげて鳴り出した。
とてもうるさいはずなのに、音が白い壁たちに吸われていくように小さくなる。
あぁ、
そういえば君に最後に言った言葉、、なんだっけ。
そうだ、、そうだよ。僕は願いを込めて言ったんだ。
「また、あした」
【君のそばで】
僕は初めて、全てを君に捧げてもいいと思った
そんな台詞は安っぽいかな?
相変わらず君ははにかみながらその顔を見せるだけだった。
でも、それでいいんだ。
いや、それがいいんだ。
晴天も
曇天も
豪雨も
豪雪も
君といたら何か特別に感じられた。
春の暖かい風も
夏の冷たい水も
秋の綺麗な山も
冬の積もった雪も
なんて事ないその全てが真新しく思えた
もしかしたら僕達の関係にケチをつける輩がいるかもしれない。
でもね、2人ならきっと。きっと乗り越えられるよ
これは恋だなんて一方的なものじゃない。
2人の、本当の愛だ
だって!
今日やっと!
僕のことを認知してくれたんだから!
【常々】
珈琲を注ぐ。
蒸し暑いこんな夜にはアイスコーヒーがいい
でも、家でアイスコーヒーを作るのは少し手間がかかる。
だから家ではいつもホットだ。
溜息と紫煙が交差する
がらがらとすりガラスを開けると生暖かい風が入る
頭をガシガシと掻きながら原稿用紙にインクを落とす
進まない話に嫌気がさしてくる
100字書いたら80字は消してる。
進めば進むほど、矛盾と整合性のとれなさに頭を抱える
くだらない話は好きだ。オチなんて必要無いから
内情を吐露する話は好きだ。自慰に似ているから
でも、
でも皆が求める話は難しい
嫌いでは、、無いけれどもね。
原稿用紙が染め上げられた時には
コーヒーの酸味が強かった。
【露と消えた貴女へ】
私は何も出来ない、愛が無いから
私は何も施せない、愛が無いから
私は何も与えられない、愛が無いから
私は何も尽くせない、愛が無いから
感動を生むことも
感傷に浸ることも
特別な時を作ることも
特質して何も出来ない
それは、愛が無いから
傲慢で、無知で、怠惰で、
育むことが嫌いで
一緒に歩むことが苦手で
笑顔を向けられるのが苦痛だった
私は、私は何も、返せなかったから、、、
さようなら、無学な私を愛してくれた君
私は君に愛を返せていた自信が無い
いつまでも愛しているよ、
何も出来なかったけれども
私は、なにか出来ていたのかな
私が君を忘れない限り、君は独りじゃ無いはずだから
どんなことをしたってキミを忘れないよ
親愛なる貴女へ
【もう一歩】
耳元にはびゅー、びゅーと風の音だけが聞こえている
今日は雲ひとつない快晴
なんていい日なのか
そういえば、最近はろくに休みもとっていなかったしちょうどいい。
田舎の実家に返って顔を見せるのもいいな
それともケーキでもかって1人パーティーでもしようか
楽しそうだなぁ。
なんてね。
そう反芻して歩みを進める
風が傷だらけの私を包み込んだ