小さな花から放たれる甘い香り。
それを肺に取り込みながら歩いていたら、小さなオレンジ色が、ツンツン跳ねたアイツの金髪にぽとりと落ちた。
取ろうと手を伸ばしたタイミングでアイツが振り向くから、その拍子にキンモクセイの花が余計に髪に入り込んでしまった。
「おいちょっと待て」
「えなに?」
「キンモクセイが」
「あ?」
丸い頭を引っ付かんで、髪の間をまさぐる。
「んわぁぁくすぐってぇ」
変な声をあげるアイツを無視してもしゃもしゃ掻き回した。
「っと…取れた」
「わ、キンモクセイだ」
「だから言ったじゃねえか」
「なんだそーゆーことかぁ」
指につまんだキンモクセイを、…落とすのも申し訳ないので、そばにあった塀の上に乗せる。
直後、ゆるい風にさらわれ、甘い香りの尾を引きながら向こうの家の庭に落ちた。
それを見届けてからアイツのほうを向くと、アイツはそわそわしながら、
「てっきり、頭撫でられたのかと」
と細々とした声で呟いた。
「……撫でられたかったのか?」
「や、別に、そんな、こと、ないけど…、」
たどたどしく答えつつ、アイツの目は物欲しそうだ。
「…」
めちゃくちゃに毛先の遊んだままの頭に、そっと手を置く。
途端に明るくなるアイツの顔。
脳裏に浮かんだ「かわいい」は言葉にせず、ただわしゃわしゃとアイツの髪を撫でた。
【キンモクセイ】
相棒は、愛する人のために遠くへ旅立った。
オレに何も知らせずに。
相棒は戻ってきた。
逝きかけの体一つ残して。
【行かないでと、願ったのに】
ただ、アイツの隣にいて、
一緒に喜んで、
一緒に泣いて、
一緒に苦しんで、
一緒に生きて、生きて、生きて、
【そして、】
──────
同時に死ねたらいいな。
毎朝コーヒーを淹れてくれること。
面白そうな本を教えてくれること。
時々、好物を作ってくれること。
襟を直してくれること。
寝落ちしたとき、布団をかけてくれること。
小さな傷でも手当てしてくれること。
寄り添って、温度を分けてくれること。
俺の隣で、笑っていてくれること。
【tiny love】
オレ、アイツのことどう思ってんの?
【終わらない問い】