残酷な現実を前に思い浮かぶのは、ありえないほど平和な情景ばかり。
想うだけ想って、実現なんてできやしないのに。
【心だけ、逃避行】
自販機の下に落ちた小銭。
【届いて……】
お前と一緒に見たものは全部綺麗だったから、
「あの日の景色をもう一度見よう」
って言われても、どの日の景色か分かんないんだよな。
【あの日の景色】
願うだけじゃなんにもならない。
行動しなきゃ。
行動しなきゃ。
行動、しなきゃ。
行動…
つかれた。
もうつかれた。
しんどい。
苦しい。
何をしても、進歩してる気がしない。
希望がどんどん薄れていく。
ああ、でも、でも。
動かなきゃ。なにかしなきゃ。
アイツを生き返らせるために。
ほんの少しの希望にもすがりつかないと、おかしくなりそうで。
アイツのために。オレのために。
何かしなきゃ。行動しなきゃ。
…あー、
息がうまくできない。
【願い事】
______
またアイツと笑って生きていけますように。
打ち寄せる波が、足を濡らす。
俺は構わずそこに立っていた。
「海、初めてだ」
誰にともなく呟く。
否、誰もいない。完全な独り言。
目をつぶった。
左右に広がる波の音が耳を覆いつくす。
こんなに心が落ち着いたことはないと思った。
打ち寄せる波。引き返す波。
足下の感覚で感じとりながら、しかしそれを見ることはせず、音だけを聞いていた。
…この音を小豆で表現した天才がいたらしいが、一体どこの誰なんだろう。
じゃぼ、じゃぼ、
目をつぶったまま、一歩ずつ、海の中に進んでいく。
ほとんど無意識だった。
だんだん、波の力が強くなっていく。
打ち寄せる波に押され、引き返す波に引っ張られた。
それでも構わず進んでいく。
目は、変わらずつぶったまま。
開けたら、怖くなりそうで。
ざばざば、ごぼごぼ、
よろけながら進む。
進んで、進んで、最期に、
引き返す波に従って、海に身体を沈めた。
【波音に耳を澄ませて】