人、動植物、物。
自分の大切な存在に名前をつける人はこの世にあふれるほどいる。
逆に考えたんだ。
自分が名前をつけた存在は、自分にとって大切なものになると。
少なくとも、オレはそう思ってる。
実際、そうなったから。
この国で一番多い名前のオレ。
二番目に多い名前のアイツ。
なんでも「一番」が好きなオレは、そうやって二人分の名前をつけたが、その「二番目」のアイツは、気づけばオレの「一番」大事な存在になっていた。
オレの中の「一番」がオレじゃないのは、ちょっと悔しかったりする。
でもそれ以上にアイツが誇らしいし、愛おしい。
オレがアイツに名前をつけて呼んだあの日から、きっとそうなることは決まっていたんだろう。
【君の名前を呼んだ日】
土砂降りの、くぐもった雨音に家中が包まれるあの瞬間。
音と水が壁となり、自分を守ってくれているような気になれる、あの瞬間。
あの瞬間が、安らぎ。
【やさしい雨音】
もういないあの子の美しい歌声が響き渡る夢を見るんだ。
【歌】
人の体温で眠ることに慣れてしまったから、
今日もアイツに布団の代わりを求める。
【そっと包み込んで】
「明日は絶対日の出と同時に起きてやる」
昨日、謎の決意をかまして床についた同居人は、太陽が昇りきった今も、ベッドですやすや眠っている。
自分は関係ないからいつ起きてもよかったが、寝過ごして文句を言われるのはこっちだから、それが面倒で、日の出近くの時間に起きられるようにアラームを設定してしまった。
お陰で眠いし、結局文句を言われることが確定してしまったし。朝から気分が沈んでいた。
いや、後者についてはこちらに責任はない。何度も起こしたのに起きなかったコイツが悪いんだから。
「…」
「日の出と同時に起きるんじゃなかったのかよ」
しばらくして、ようやく薄目を開けた同居人に、呆れを隠さず問う。
「んー……?ん~…」
寝ぼけた顔で、外を確認する。
「起こしてくれよ」の言葉を覚悟していたが、同居人はそのままぱたりと倒れこんだ。
「なんかもう、いいや」
「はあ?」
「もーちょっと寝る~…」
気まぐれが過ぎる。呆れが最高潮に達して舌打ちすら出そうになるのを、なんとかおさえる。
もともと意識がはっきりしていなかった同居人は、また目をつぶると、ものの3秒で寝息を立て始めた。
いつも起きているはずの時間にはまだ程遠いが、自分はすっかり目が冴えてしまっている。
仕方なく朝の支度でもしようかと思って立ち上がろうとしたら、手に何かが触れた。
同居人の手だった。
まるで「一緒に寝よう」と誘っているかのような温もりをもって、自分の手を握っていた。
「…はあ」
ため息をつく。
もうこっちも勝手にしよう。
そう決め、同居人の寝顔を眺めつつもう一眠りしようと、もう一度布団に入った。
【Sunrise】