「もし、オレのことを手放さなきゃいけない時がきたら、お前はできるか?」
「そんな時がくると思うのか?」
「わかんねえけど、もし、そうなったら」
「じゃあお前は?俺のこと手放せるのかよ」
「それは、」
「そんな話をするってことは、お前はその勇気があるってことだよな」
「……」
「俺を手放さなきゃいけない時がきたら、お前は手放せるんだな?」
「………嫌に決まってんだろ、無理だよ、やだ」
「…それなら、俺の答えも分かるよな」
「……」
「そんな未来永劫ありえねえこと、二度と聞くんじゃねえぞ」
「…うん」
【手放す勇気】
_____
愛が強すぎる故に、詰め寄ってしまう。
生きていくうえで、なくてはならない。
手放したら死ぬ。いなくなったら死ぬ。
ずっと側にいるべき、一緒に生きるべき存在。
そういう意味をこめて、
「俺にとってお前は酸素みたいな存在だよ」
と言ったはずだけど、
お前は腹を立ててしまった。
言った後で気づいた。
この言葉、目に入らない、見向きもされない存在とか、ありふれて、個性のない存在って意味にも取れるよなって。
ごめん、俺が悪かった。
誤解招くようなこと言って。
これからはこんな回りくどいこと言わないから。
これからはちゃんと「大好き」って言うから。
【酸素】
φ(..)
【記憶の海】
うざったい絡みをしてくる。
所構わずでかい声で俺を呼ぶ。
寄り道をそそのかしてくる。
すぐ肩を組んでくる。
お前はそういうヤツだ。
何かあると一番に俺に電話を寄越すし、
会いたいからと、深夜に家に押し掛けてきたこともあった。
そんな、はた迷惑なヤツだけど、
人生を諦めかけてた俺を救ってくれたのも、
一度たりとも側を離れずにいてくれたのも、
心の温もりを、幸せを教えてくれたのも、
俺の存在を「幸せだ」と言ってくれたのも、
全部お前だった。
お前だけだった。
お前の言動が全部、俺への好意、愛情の表れなのは知ってる。
それに対して、なんだかんだ突き放せずにいる自分の心も、俺は知ってる。
だから俺は決めた。
そんなお前を、俺の『幸せ』を、一生かけて守ると。
【ただ君だけ】
「何ですかこれは」
「夢です」
「これのどこが?真っ黒じゃない」
「ゆうべは夢を見てないので、こうするしかなくて」
「…………」
「……………」
「……そういうことじゃなくて」
「?」
「私が描くよう言ったのは将来の夢です」
「……ああ」
「新しいキャンバスはあるから、描きなおしてきなさい」
「いや、ちょうどいいのでこれを背景にして描き足します」
【夢を描け】