「はいこれ」
「ん、ありがと。…この〔好き〕、ちっちゃいね。とりあえず受け止……待って、今までもらった中で一番重い…」
「ふふん、結構頑張ったんだよ?詰めるの」
「ホントだ…がっかりしてすみません…」
「見かけで判断しちゃだめだよ」
「そうね……じゃ、これお返しの〔好き〕」
「ありがと、…うおでっか…え、ねえちょっと、今までずっとこんなん抱えてたの?あげたのより重いじゃん」
「これは見かけで判断していいやつだよね」
「いんや、これも持つまでは中身の重さ分からないから」
「そっかあ」
【好きだよ】
______
〔好き〕という言葉の入れ物に、めいっぱいの気持ちを詰めて交換する二人。
量より質的な話。
風に舞う桜の花びらを掴んでみたいと思ったことは、誰しも一度はあるだろう。
そして、誰もが考え、挑戦する故に、成功が難しいことも、よく知られている。
そんなわけで、運試しのように、毎年やっていたりするのだが。
桜の花びらを掴めること自体、なかなかの確率でしか起こらない奇跡なのに、
何度も挑戦してようやっと掴んだものが、隣で同じことをやっていた君の手だった、なんてことは、桜の花びらを掴むよりも起こりえないことのはずであり。
後者の確率を先に引き当ててしまった自分は、最高に運がいいと言っても、いいんじゃないだろうか。
【桜】
ご飯を食べる。
散歩をする。
買い物に行く。
そんな何気ない日常の行動に、「君と」がつくようになった、脳内スケジュール帳。
【君と】
どれだけ手を伸ばしても届かない。
けれどつい手を伸ばしてしまうそれは、
あまりに大きく、あまりに眩しく、あまりに綺麗で。
そんな表現に、憧れやら想い人やらを連想してしまうような、空。
【空に向かって】
病室。
周囲は全部白いのに薄暗く感じるのは、きっと、
目覚めたばかりの相棒が、怪訝そうな、不審なものを見るような目でこちらを見ているからだろうか。
頭を打っていたから、なんとなく予想はしていた。覚悟もしていたつもりだった。
けれどこうして、相棒の記憶から自分の存在を抹消されたことを実感すると、やっぱり傷つくもので。
誰よりも信頼して、愛していたから、なおさら。
今の自分は、どんな顔をしているのだろうか。
きっと酷い顔だ。相棒の目つきがまた鋭くなったから。
苦しい。辛い。悲しい。
そんな安い言葉じゃ表せないくらいの感情が心にはある。
けれど、今の自分には選択肢がない。
一から関係を築き直す以外には。
とりあえずこれからやらないといけないことは、
二度目の「はじめまして」。
【はじめまして】