いつもは仏頂面だったり、ツンとした顔ばっかりなのに、
別れ際にだけ、心底愛おしいとでも言いたげな顔をしながら頭とか頬を撫でるの、ホントに反則だと思う。
そんなだから、離れられなくなる。
【別れ際に】
この通り雨を口実にして、
あなたと同じ傘に入りたい。
【通り雨】
初めて、人を愛した。
その存在を、大事にしたいと思った。
だから、離れた。
自分のそばにいたら、きっと悪いことに巻き込まれたり、傷つけられる。そしたらきっと、あの人は離れていってしまう。
そうならないように、自分から離れた。
これなら、あの人は傷つかないし、自分はあの人をずっと見ていられる。お互いに悲しい思いをしなくて済む。
お前ならこの気持ち、分かってくれるだろ?
────
って、泣きそうな顔して言われてもな…
それだったらそばでとことん守ってあげたら?
そう言いかけて、やめた。
僕も人のこと言えないから。
【大事にしたい】
「まさか近くにこんな名所があったとは」
「んだな」
「ほー、めっちゃキレ~」
「な。お前には敵わないけど」
「…」
「……」
「…なあ、そう言うことさらっと言うのやめようぜ…後から効くから、そういうの…」
「…うん、俺もいま思った…恥ず…」
【夜景】
空は、昔から泣き虫だった。
些細なことでもよく泣いてすがりついてくるから、幼なじみの俺は、そんな空のお世話係のようなものになっていた。
始めは鬱陶しさも感じたが、泣き止んだあとの空の笑顔を見るうちに、だんだんこれが自分の役目、使命だと感じるようになり、その役目を他の人にとられるとどうしようもなくもどかしくて…
要するに、アイツのことが好きになっていた。
成長するにつれて、空が泣くことは少しずつ減っていったが、根本の性格はそこまで変わっておらず、ことあるごとに俺を頼ったりしてくれていて、空の中での自分の立場が変わっていないことに常々嬉しさを覚えていた。
そんなある日。
物陰で、空が泣いている。
「今日はどうした、空」
ビクッとして俺を見上げる空。
いつもと反応が違うと思ったら、空は慌てたように距離をおいた。
驚いていると、空がとんでもないことを口にした。
「…構うなよ。おれのこと、めんどくさいって思ってるんだろ」
「…は?」
「お前の友達から、聞いたもん…お前がおれのこと、鬱陶しいとかめんどくさいとか思ってるって」
「なんだよ、それ」
「それにっ、いい加減、縁、きりたいとか、言ってたらしいじゃん、」
「てめえいい加減にっ…!」
頭に血がのぼって、空の胸ぐらをつかみ壁に押し付ける。泣き腫らした目で睨み付けられる。
「…誰だ、お前にそんなこと言ったやつ」
「誰だっていいだろ」
「良くない」
「なんで」
「許せねえから」
「何が」
「お前にでたらめ吹き込んだことだよっ」
「なんでっ!」
「好きだからだよ!!!!」
怒りが最高潮に達して、思わず叫ぶ。
空が驚いた顔をして固まる。
「…お前が、好きだから、お前に変なこと言ったやつらも許せねえし、それを信じて離れようとするお前も許せねえ」
肩で息をして気持ちを鎮めると同時に、固まったまま涙を流す空の顔が目に入り、我に返った。慌てて手を離す。
「ごめ、ごめん、こんなことして、びっくりしたよな」
「…」
「空?」
「…す、き?」
「え?………あ」
やってしまった。こんな場面で、こんな勢いで告白なんて、絶対やりたくなかったのに。
そもそも、この気持ちだって、隠すつもりでいたのに。
「…ごめん忘れてくれホントに、」
「めっちゃ嬉しい」
そう言って、はにかみながら涙をぬぐう空。
「えっとそれは…両想い、ということでよろしくて?」
赤面しながら聞くと、空はこくこくとうなずく。
その直後、空の顔が歪み、ボロボロと涙がこぼれだした。
「えちょ泣くなって」
「う、嬉し泣き、だし」
…しばらく、空は昔みたいな泣き虫に戻りそうだ。
【空が泣く】