Open App
6/13/2024, 2:54:32 PM

「私、けっこう梅雨の時期好きなんだよね」

帰り道、突然切り出された話。

どうして?と形式的に聞き返すと、彼女は花壇の方向を指差した。

「ほら、あれ」

そこには、青が強めの紫色のあじさいが咲いていた。

「私あじさいが好きなんだ~」

脈絡のない語調で彼女は言い、そのあじさいの前にしゃがみこんだ。自分も座らされる。
そして、また勝手に話し始める。

「あじさいって、土のペーハーによって色が決まるんだって。ん?ペーハー、って言い方はもう古いか、ははっ。…このあじさいは青だから、土は酸性か。よかったよかった、私この色好きなんだよねぇ」

あじさいの花びら(正式には「ガク」だとのちほど聞かされた)をつまみ、軽く引っ張り、撫で、弾き、彼女はつらつらと聞いてもいないことを語り続ける。

そろそろあじさい講座にも飽きてきて、帰ろうかと立ち上がった時、

「ね、綺麗でしょ~」

そういって笑いかけてきた彼女。


その笑顔が、あじさいが霞んでしまうほど綺麗に見えて、不覚にも、この空気を読まない少女にときめいてしまった。





【あじさい】

6/12/2024, 1:41:06 PM

「この食べ物は、好き?」
「好き」

「この色は?」
「好き」

「このドラマは?」
「うーん…嫌い」

「この虫は?」
「え、嫌い嫌い、大嫌い」

「この絵は?」
「あんまり好きじゃない」

「この写真は?」
「うーん、ちょっと好き?」

「この空間は?」
「結構好きかな」




「じゃあ、僕のことは?」
「…世界で一番大好きっ!」





【好き嫌い】

6/10/2024, 10:28:26 PM

「やりたいことがない」
「じゃあやることあげる」
「何」
「俺のために生きて」
「無理」
「何で、」
「もうやってるから。それよりもっと別のことやりたい」
「…なら、旅行でも行く?」
「行く!」
「…」


嬉しいやら悲しいやら。



【やりたいこと】

6/9/2024, 11:35:16 AM

『朝日はあったかいねぇ』

幼いころ、抱き締められながら母によく言われた言葉。
あの頃は、母にそういわれることが嬉しかった。


小学校にあがったころ、そんな母が事故で亡くなった。
死を理解していなかったあの頃でも、もうあの言葉を聞くことはないのだと子供心に気づいて、どうしようもなく悲しくなって、三日三晩泣き続けた。


あれから、小中高と、あの言葉を一度も聞くことなく生活してきた。
それなりに充実した生活を送って、恋人もできて、もうあの言葉のことも忘れかけていた。


けれど、何度目かのデートの別れ際に恒例となっていたハグをした時、恋人が言った。


「朝日って、あったかいな」


約10年ぶりに聞いたその言葉。
母の姿を思い出して、恋人もさらに愛おしくなって、「ありがとう」と言いながらしばらく泣いた。




【朝日の温もり】

6/9/2024, 12:25:01 AM

あ、

また間違えた。
こっちが正しい路だったのか。


何度も繰り返したバッドエンド。
どれだけ進んでも、結局は最初(タイトル)に戻される。


慣れた手付きで、間違えた選択肢の記憶(セーブデータ)を消す。



新しい人生(ニューゲーム)。

今度は間違えないといいけど。




【岐路】

Next