あれは事故だったんだ。誰も悪くない。
もう忘れよう。きっとアイツももう忘れた。
そう思うほど、
あの時触れた柔らかい感触が、頭に、唇に、こびりついて離れない。
片思いしている男が相手だからなおさら。
無意識に唇をなでる。
ほんの少し、心が痛かった。
【忘れられない、いつまでも。】
明日世界が終わるなら、それまでに、
大体の人が、色々やりたいこととか決めると思う。
それを今日全部やって、明日が来たとして、
『明日』が来たのになかなか終わらんな、世界、とか思いながらちょっと安心して次の計画を立てたりしてるときに、突然世界が終わったりする。
もし『明日』の中で終わる時間が決まっていたとして、じゃあそれまでに何々をやろう、って決めて、
それが以外と早く終わってちょっと時間が余って、「あー、この時間でまだなんかできたんだろうな」とか思ってたら世界が終わる。
まあ、んーと、何が言いたいかっていうと、人間、後悔が付き物だけど、できるだけしないでいこうぜって話。
「なんだそれ」
「知らね、なんか思い付いた。でも元気出たっしょ」
「別に」
「…」
「…でもありがと」
【明日世界が終わるなら】
いつも上機嫌で、うざ絡みしてきて、バカで、距離近くて、短気で、へらへらしてて、
でも、ふとした笑顔がかわいいヤツ。
そんなアイツと出逢わなければ、変わらなかった心がある。
ありがとう。俺を永らえさせてくれて。
いつもうざがって適当にあしらってるけど、ホントはお前のこと、そんなに嫌いじゃない。
なんて、こんな恥ずいこと絶対言わねえけど。
【君と出逢って】
目をつむる。
遠くから聞こえる電車の走行音。
虫の鳴き声。時計の針の音。
すぐそばに、衣擦れの音。
そして、もっとそばには、君の心臓の鼓動。
おやすみ。
【耳を澄ますと】
「二人だけの秘密ね!」
そういってはめられた、ねじった紙でできた指輪。
あの日私達は、誰にも内緒で結婚の約束をした。
あれから15年過ぎた。
引き出しから出てきたそれを見て、あの日のことを思い出した。
結局、彼女は数年前に他の男と結婚した。しかもデキ婚。
二人だけの秘密が、一人きりの固執に変わった瞬間だった。
人は変わるし、どちらにしてもこの国では同性婚はできないことも知っていた。それまでの間、約束を確かめなかった私も悪い。仕方がないことだった。
けれどやっぱり裏切られた気持ちになって、デキ婚という事実がさらに心を抉って、式が終わったその日のうちに別れを告げた。
しばらく傷は癒えなかったけど、新郎の友人とご縁があって、交際することになった。
親からは反対されて家を追い出されたけど、逆に都合がよかった。
結局、これだけは捨てられないんだよな…
そう思いながら指輪を眺めていると、彼女が帰ってきた。
ただいまとお帰りを言って、抱き締め合う。
さあ、ご飯を食べてお風呂に入ったら、一緒にパートナーシップについて話し合おう。
【二人だけの秘密】