目をつむる。
遠くから聞こえる電車の走行音。
虫の鳴き声。時計の針の音。
すぐそばに、衣擦れの音。
そして、もっとそばには、君の心臓の鼓動。
おやすみ。
【耳を澄ますと】
「二人だけの秘密ね!」
そういってはめられた、ねじった紙でできた指輪。
あの日私達は、誰にも内緒で結婚の約束をした。
あれから15年過ぎた。
引き出しから出てきたそれを見て、あの日のことを思い出した。
結局、彼女は数年前に他の男と結婚した。しかもデキ婚。
二人だけの秘密が、一人きりの固執に変わった瞬間だった。
人は変わるし、どちらにしてもこの国では同性婚はできないことも知っていた。それまでの間、約束を確かめなかった私も悪い。仕方がないことだった。
けれどやっぱり裏切られた気持ちになって、デキ婚という事実がさらに心を抉って、式が終わったその日のうちに別れを告げた。
しばらく傷は癒えなかったけど、新郎の友人とご縁があって、交際することになった。
親からは反対されて家を追い出されたけど、逆に都合がよかった。
結局、これだけは捨てられないんだよな…
そう思いながら指輪を眺めていると、彼女が帰ってきた。
ただいまとお帰りを言って、抱き締め合う。
さあ、ご飯を食べてお風呂に入ったら、一緒にパートナーシップについて話し合おう。
【二人だけの秘密】
これ以上優しくしてくるな、この人たらし。
そっちは他のヤツに気があるくせに。ピンチな時守ってくれるし、ぶっきらぼうな物言いだと思ったらこの上なく優しいこと言ってるし、めんどくさいとか言いながら結局いろいろつるんでくれるし。あと顔綺麗だし。
好きになんて、なっちゃいけないのに。
そんなんだから、余計好きになる。
【優しくしないで】
楽園の巫女。
その二つ名を持つ少女の足元には。
こてんぱんにやられ降参した小物妖怪が膝をついて許しを乞うていた。
何が楽園の巫女だよ、地獄の使いじゃないか、と白黒の少女は密かに思うのだった。
【楽園】
己に残された時間が、刹那だろうがそれ以下だろうがなんだっていい。
その一瞬を、君のそばにいることに費やせるのなら。
【刹那】