あるところに、先輩と後輩がいました。
先輩は空を見て言いました。
「物憂げな空だ」
「…そうですか?」
物事の意味をきちんと知りたい後輩は、すかさず検索をかけます。
「…『物憂げ』とは、大まかに『なんとなく憂鬱な、なんとなく塞ぐような』という意味です。そこから連想される天気は雨や曇りだと思いますが」
「うん、そうだね」
「今は、晴れですが」
「そうだね、雲ひとつない。でも」
空を見つめながら、独特の感性を持っている先輩は笑って言います。
「自分にとっては雲がないほうが憂鬱なんだよ」
「…そうですか。しかし雲は所詮水滴や氷の集まりです」
「その水や氷の集まりがいろんな形をするのが面白いんじゃないか」
「…やっぱり先輩の考え方は分かりません」
そう言いつつ、先輩の考え方にほんの少し心を動かされる後輩なのでした。
【物憂げ】
今日にさよなら、普通の人ならできること。
だけど、私に来るのは明日も『今日』なんだ。
昨日も、明日も、明後日も、『今日』。
『今日』以外の日がなくなった空間。
カレンダーの日付も変わらない。お庭の花も枯れない。鳥もいつまでも眠っている。風は止まったままで、月もいつも同じ形。
毎日『今日』を繰り返したから、明日何があるかも知っている。
明日は、
「イワシがつちからはえてくるんだ」
【今日にさよなら】
今日のお題を見てふと思い出したので書きました。あの曲とても好きです。
その存在が自分にとって誰よりも大切で、手離しがたくて、愛おしいものだと気づくには、少し遅
すぎたようだ。
【誰よりも】
バレンタイン前日。意気揚々と本命チョコ作りに励んでいる親友を見ながら、オレは応援する気持ちと共に親友の本命に対する少しの嫉妬を抱えていた。
バレンタイン当日。親友からその本命チョコをもらったのは、オレだった。
その時は、嬉しいとか戸惑いとかいろんな感情がごちゃ混ぜになって、やっと出てきた言葉が、本命の目の前で本命チョコ作るなよ、というなんともぶっきらぼうなものだった。
さすがにみっともないから、来月は最高のお返しを作ろうと思う。
【バレンタイン】
『まだかいな』
『待ってて今行くから』
とLINEを送って、友人との待ち合わせ場所へ向かうために玄関を出た。
待ってて、と言ったものの、もう遅刻寸前。遅刻しそうだと逆に冷静になるという人間の性質が働いて、焦らずゆっくり歩いた。
待ち合わせ場所までの中間地点くらいの角を曲がったところで、汗だくの友人と出くわす。
友人はいきなりものすごい勢いで近づいてきて自分の肩をつかみ、「早まるな!!話なら聞くから!!!」と息切れしながら叫んだ。
「どしたの」と聞くと「だって、LINE!!!!LINE!!!!」と言葉を覚えたてのインコのように繰り返すので、困惑しながらもLINEを見返すと、
『待ってて今逝くから』
「…おっと」
やはり遅刻は少なからず人を動揺させるようだ。誤爆していた。
にしても友人、お前そんなに文章を真に受けやすい奴だったか?
【待ってて】