今年の5月末、このアプリに出会ってから早半年余り。たくさんの短編を書かせていただきました。
お題を見ても話が思い付かなかったり、話はできてるのになかなか言葉にできなくてスランプになったりありましたが、それでも楽しく書くことができました。
ハートもたくさんいただいて、今では700を越えました。こんなにたくさんの人に見ていただいているのかと思うと同時に、自分の話を気に入ってくださった皆さんに感謝しかありません。
本当にありがとうございます。
この文章を区切りに、このアプリでの自分を明日に送り出そうと思います。
皆さんも、良いお年を。
みかん。
自分はあんまり食べなかったけど、アイツが冬になると実家からいっぱいみかんを仕入れてくるから、いつの間にか冬になれば食べるようになった。
そういえばあんた、酸っぱいやつのほうが好きだったっけ。
適当に手に取ったみかんが甘いと、すぐあたしに押し付けてきたよな。
あたしもさ、あんまり好んで食べないんだけど。甘いみかん。
だからさ、半分こして食べようや。これ。多分甘いから。
そういって黄色い皮をむく。
「…白ぉ」
筋をちまちまむいていると、アイツが催促してる気がして、「ちょっと待ってよ」と呟きながらむき続けた。
「…はい、半分」
そうしてむき終わったみかんを、目の前におく。
ぷち。果汁が溢れてくる。
やっぱり甘かった。
あたしの勘、鋭いでしょ。頭の中で呟く。
…ねえ、おいしい?
……そっか、やっぱあんまり好きじゃないか。ハイハイ、あたし食べますよ。
まあ、どっちみち全部一人で食べるんだけどね。
毎年遺影と向き合って食べるの、やっぱり寂しいなと思いながら、残り半分のみかんを一気に口に入れた。
【みかん】
君に会えない寂しさをまぎらわすために、音楽をかけた。
そうしたら余計寂しくなったから、君に電話をかけた。
「会いたい」の一言で深夜なのに駆けつけてくれて、めいっぱい抱き締めてくれた。
嬉しさと愛しさで涙が止まらなくて、その日は君の腕の中で、泣き疲れて眠った。
翌朝の別れ際、「ありがとう」と言うと君はもう一度だけわたしを抱き締めて「またいつか」と耳元で呟いた。
どうしてそんなことを言うんだろう、と思いながらわたしは君を見送った。
そんな夢を見たあの日、わたしは自然と、君がもうこの世にいないことを受け入れていた。
もう、寂しくなかった。
【寂しさ】
冬になったら、一緒に海に行こう。
深く、深く沈んだら、冷たくてとっても気持ちがいいだろうね。
手足が凍傷になるまでお互いに水をかけあうのも楽しいだろうし、冷たい砂浜に寝っ転がるのもいい。
あのドラマでみたように、水と砂の境目で追いかけっこでもしようか。きっと楽しいよ。
そのあと、互いに手を取り合って、暗い海の深い、深いところへ潜っていくんだ。
そこで抱き合って、口づけを交わして、最期の時を二人で過ごすんだ。
どうだい?とっても魅力的だろう?
そんな文章を書いてみたら、彼女は一言、「寒いですね」とだけ言った。
それに「震えるくらい美しい文章だってこと?」とジョーク混じりに尋ねると、無言で頭をはたかれた。
【冬は一緒に】
先輩とは、図書室でとりとめもない話をするだけの仲だった。
けれどいつしか、図書室で本の整理をする先輩の横顔を、廊下ですれ違った先輩の姿を、目で追うようになって。
気づけば、頭が先輩のことでいっぱいになっていた。
もっと近くで先輩をみていたい。もっと先輩のことを知りたい。
そう思いながら、この気持ちに名前をつけられないままでいた。
いつものように、夕方の図書室で他愛のない話をして、なんとなく気になった本を借りて、帰ろうとしたとき。ふと先輩を振り返った。
「先輩」
「ん?」
呼び掛けに応じてあげられた先輩の顔を見て、気づいた。
自分は、この人に恋をしていると。
けれど、手を繋ぎたいとか、キスをしたいとか、そういう恋じゃない。
ただそばにいるだけで癒されて、今みたいにとりとめもない話ができるだけで嬉しい感じの、小さくてささやかで、それでいて特別な恋。
「何でもないです」
「あはは、なにそれ」
「それじゃ、失礼しますね」
「うん、こっちも図書室の戸締りしたらもう帰るから。じゃあね」
「はい」
先輩が笑う。つられて自分も笑う。
大人になっても、こんな関係が続いてほしい。
でも今より、もう少し近い存在で。
そんな気持ちを本と一緒に胸に抱えながら、図書室をあとにした。
【とりとめもない話】