〔お題:正直〕
正直に言おう。僕は君が世界で一番大好きだった。
その風にとける透き通った髪も、僕のことを見つめる赤い目も、柔らかく微笑むその顔、唇、全部全部。
誰がなんと言おうと、君がどんな姿になろうと、僕は君のことが誰よりも大切だったんだ。
君に勇気を出して告白したあの日。
僕は君を最後まで守ると決めた。
君の命が短いこともしらずに。
でも遠慮がちに君が「よろしくお願いします」と言ってくれたのを鮮明に覚えている。
その約束を、守れないことが分かるのが遅すぎたんだ。
僕は、最後の最後まで、君を愛してた。今だってそうだよ。
本当は「好き」だけじゃ足りなかった。言葉に表せない愛を全部君に伝えたかった。
だからさ…
「戻ってきてよ…」
『君』が入った骨壺を抱き締めながら、僕は今日も涙を流す。
〔お題:半袖〕
【タイトル:夏の恋人】
眩しい青空。じりじりと皮膚を焼く日差し。
蝉の鳴き声に包まれて、何回めかのデートの帰り道を、言いたいことも言い出せず、僕はただ歩いていた。
僕の前を歩くのは、僕の恋人。
サラサラの髪をなびかせて、静かに歩いている。
もうすぐ恋人の家につく。
今日別れたらしばらく会えないんだ、いわないと。
そう思っても、気持ちばかりが先走って、言葉が出てこない。
あと、十何メートル。
恋人が振り返る。
「…じゃあ、ここで。デート、楽しかったよ」
「う、ん」
言葉がつっかかる。言いたいのに、言わなきゃいけないのに。
「またね、バイバイ」
恋人が顔を背けて歩きだす。
今しかない。
「っ待って」
恋人の短い袖から出る、うっすらと汗のにじむ白い腕をつかんだ。彼が振り返る。
僕の全身からも、緊張と暑さで汗が吹き出てきた。
「あの…別れ際にこんなこと言うのあれだけど、えっと…い、いつからでもいいんだけど…
…いつか僕と、一緒に暮らしませんか…?」
僕たちの間に風が吹き抜ける。
「…ふふっ、……はい」
あのときの彼の美しい笑顔を、僕は忘れない。