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〔お題:半袖〕
【タイトル:夏の恋人】

眩しい青空。じりじりと皮膚を焼く日差し。
蝉の鳴き声に包まれて、何回めかのデートの帰り道を、言いたいことも言い出せず、僕はただ歩いていた。
僕の前を歩くのは、僕の恋人。
サラサラの髪をなびかせて、静かに歩いている。

もうすぐ恋人の家につく。
今日別れたらしばらく会えないんだ、いわないと。
そう思っても、気持ちばかりが先走って、言葉が出てこない。
あと、十何メートル。
恋人が振り返る。
「…じゃあ、ここで。デート、楽しかったよ」
「う、ん」
言葉がつっかかる。言いたいのに、言わなきゃいけないのに。
「またね、バイバイ」
恋人が顔を背けて歩きだす。
今しかない。
「っ待って」
恋人の短い袖から出る、うっすらと汗のにじむ白い腕をつかんだ。彼が振り返る。
僕の全身からも、緊張と暑さで汗が吹き出てきた。


「あの…別れ際にこんなこと言うのあれだけど、えっと…い、いつからでもいいんだけど…


 …いつか僕と、一緒に暮らしませんか…?」



僕たちの間に風が吹き抜ける。




「…ふふっ、……はい」

あのときの彼の美しい笑顔を、僕は忘れない。

5/28/2023, 1:22:02 PM