子どもの頃買ってもらったプリンセスの絵が描かれたピンクのノート。1番のお気に入りで、どこへ行くにも持って歩いた。
どうしても遊びたかった子が、そのノートをくれないと遊ばないと言うから、渡して一緒に遊んだ。
家に帰ってもあのノートが忘れられなくて泣き続けた。
いつまでも泣き止まない私に困って、最後には返してもらった。
あのノートはいつから無くなったのだろう。
角度によって絵柄が変わる手鏡。手鏡自体は使わないけど、絵柄が変わるのが可愛くて毎日眺めては引出しに仕舞っていた。
あの手鏡はまだ引出しにあっただろうか。
毎日聴いていたあの曲。恋とはそんな気持ちになるものなのかと期待が溢れてワクワクしていた。まだ口ずさむ事はできる。
あの曲を最後に聴いたのはいつだろう。
よく誘ってくれたあの人。どこへ行っても、何をしても楽しくて、くだらない話でも永遠にしていられた。
あの人はもう随分と誘ってくれない。
『お気に入り』
思い出したくない事ばかり浮かび上がってくる。
1つ1つ浮かぶ度に心臓が掴まれたように痛む。
その時に戻れば今なら上手くやれるはず。
さあ、やり直そう。
戻る術はないから、頭の中で作り変える。
『タイムマシーン』
真っ暗な部屋の中。
眠りたいのに眠れない。
こんな時は大抵ネガティブな考えが頭の中をぐるぐると彷徨い続ける。
きっともう誰からも愛される事は無いだろうとか、きっと世界中の人から嫌われているだとか。
本当は愛されたくて、愛されたくてしょうがない。
でも人と関わるのは疲れる。
自分が1番大切で、傷つく事はしたくない。
誰からも愛される世界を想像する。
現実は辛いものばかりだというわけではないが、今の気持ちではそうとしか思えないから。
いっそこの世界の中に居られたらいいのに。
『夢を見てたい』
ポケットに手を突っ込み夜道を歩く。
大した距離ではないが、車も人も通らないからか、世界に1人きりとなってしまったかのような感覚になる。
隣に居てくれる人がいれば…。
こんな季節のせいだろう。人肌恋しい。
『寒さが身に染みて』
顔を出し始めた太陽。
その眩しさと澄んだ空気とは裏腹に、頭痛と吐き気を催し酷い顔の俺。
別に修行をしてきたのではない、普通に飲みすぎた。
誰かが初日の出を見に行こうと言い始め、暗い中山道を歩いてきた。
酔った勢いで出てきたから最初こそ皆盛り上がっていたが、頂上に近づくにつれ静かになっていた。
日付が変わった程度で新年を感じる事はないが、0:00を待つ事や、大量の酒を飲んだ後に山を登る事、わざわざ日の出を見る事など、普段は気にしない事・やらない事をする事で年が変わった事を体感しているのだろう。
今の“事”多かったな。
なんてちょっとポエマーな自分にツッコミながら太陽を見つめる。
この特別感がいいよな。
『日の出』