9/15/2025, 3:18:13 PM
ああ、トランクか何かに詰め込まれ
どこか遠くに行ってしまひたい!
湖畔の蒼々と静かな旅館の清潔な布団の上で
一人死んだやうに寝てゐたい!
何もかも打ち捨て、削ぎ落とし、散らかして
持ってゆくのは褪せたもの
ただ何も思考の内に入れず、人間さえも視より排して
涼しき日だまりで 蝉と蝶と木と
白昼の盛り
遊んでゐたい!
9/15/2025, 9:38:23 AM
少女の目は酷く冴えざえとしていた。
激しくうねり立つような、あるいは吹き荒ぶような、凄惨な美しさをたたえてそこにあった。
「やっぱりあたしのこと、笑ってらしたのね。」
海は潮が満ちてくるらしかった。カーテンが膨らんでは萎んで、あたかも波を打つようだった。稜線から少しばかり上に、細い月が傾いていた。随分と褪せている。
「嘲笑っていたんでしょう。ねえ、そうならそうと言って。でなけりゃ苦しいわ。笑ってらしたんでしょう?」
僕は押し黙った。それから、彼女の目を見つめたまま、
「笑うもんか。」と一言だけ投げつけた。
なぜか今、彼女の混じり気のない真っ黒な眸が、ひときわ美しく見えた。
「嘘つき。」
彼女は、恐ろしい勢いで僕の肩を左手で突き飛ばすと、さめざめと泣いた。まだ、先刻飲んだワインの酔いがあって、そのうちに少女はこっくりと眠ってしまった。眸と同じ色をした髪が生成りのシーツに散らばって、もう静かだった。