稲荷山房

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 少女の目は酷く冴えざえとしていた。
激しくうねり立つような、あるいは吹き荒ぶような、凄惨な美しさをたたえてそこにあった。
「やっぱりあたしのこと、笑ってらしたのね。」
 海は潮が満ちてくるらしかった。カーテンが膨らんでは萎んで、あたかも波を打つようだった。稜線から少しばかり上に、細い月が傾いていた。随分と褪せている。
「嘲笑っていたんでしょう。ねえ、そうならそうと言って。でなけりゃ苦しいわ。笑ってらしたんでしょう?」
僕は押し黙った。それから、彼女の目を見つめたまま、
「笑うもんか。」と一言だけ投げつけた。
 なぜか今、彼女の混じり気のない真っ黒な眸が、ひときわ美しく見えた。
「嘘つき。」
 彼女は、恐ろしい勢いで僕の肩を左手で突き飛ばすと、さめざめと泣いた。まだ、先刻飲んだワインの酔いがあって、そのうちに少女はこっくりと眠ってしまった。眸と同じ色をした髪が生成りのシーツに散らばって、もう静かだった。

9/15/2025, 9:38:23 AM