「来年もここに来ようね」
昨年の今日、君とそう約束した。
「ねえ。来たよ」
波の音、潮の香り。
本来であれば君と来るはずだった海。
陽が出ていれば辺り一面を碧の波がキラキラと輝いていたであろう。
「1年ぶりだね」
ゆっくりと砂浜を歩く。足の指に砂がついて変な感じがする。
「ここだ」
砂浜を歩き回ってようやく見つけた。
昨年、君と一緒にここで見た海。
暗闇で碧の波は一切見えない。
でも―
『 ここはね、僕にとってのお気に入りの場所なんだ』
「普通の海じゃん」
『 違うよ。この海はね、他の海とは違うんだ』
「ふーん」
『 そろそろ見えるよ』
そう言って君は輝いた瞳でカウントダウンをはじめる。
『 5、4、3、2…』
アホらしい。海は海じゃん。水と砂でできた場所。
『 1…ほらみて!!』
そういって君が指を指す。
「うわぁ…!」
今まで漆黒の海が月明かりに照らされて碧く見える。
『 海だけじゃないよ。上も見て』
そう彼が指を指した方を見ると―
空が星の海となっていた。
青、赤、白。大小様々な星が海と私たちを照らしていた。
『 今日は七夕だから天の川も見れるよ』
そう彼が教えてくれた方角を見ると、青と紫がコントラストになり、一直線のように見える。
『 ここは僕のお気に入りの場所なんだ。今日どうしても君と来たかったから、晴れててよかった』
そういって君は私の方を向いて微笑んだ。
この時だけは月明かりも雲で隠れて暗くなり、私の味方になってくれた。
『 来年も一緒に見に来ようね』
「うん。絶対」
そういって小指をだすと、君も小指をだし、指切りげんまんをした。
「ねえ。嘘ついたら針千本飲むんだよ。ちゃんと飲んでね。」
ちゃんと約束したじゃん。一緒に来年も見に来るって。
「どうして…ねえ。」
視界が水で霞んで見える。口に水が入ってきて海の味がした。
その時、暖かな風が背中を押した気がした。
まるで、遅れて来て謝るかのように。
「なんだ。ちゃんと来たんだ。これで針千本飲まなくて済むね」
さらに暖かい風が吹く。
―もちろん―
「約束したもんね」
―来年も君と一緒にこの海を―
少なくとも私は彼といる間は幸せだった。
彼の声を聞き、彼の温もりを感じる。
互いの頬をつねり合い、時にはキスやハグもする。
それだけで幸せだと思っていた。
―でも―
彼と私の「幸せ」の定義は違っていたみたいだ。
偶然にも彼が開いていたTwitterを見てしまった。
彼は酷く動揺していたが、私は彼に悟られないようにし、非公開になる前に彼のアカウントを探し、呟きを見る。
どうやら、
私にとっては彼1人で「幸せ」だが
彼にとっては私以外にも「幸せ」と感じる存在がいるらしい。
私が彼に喜んでもらいたいと思って贈ったプレゼント。
でも、彼にとっては重いプレゼントだったらしい。
「幸せ」と思っていたことがスマホ1つで全てが剥がれ
壊れていく。
知らない方が「幸せ」だったのか
知った方が「幸せ」だったのか
答えを知る者は誰もいない。
明けない夜はない。
有名な歌手が希望の歌として歌い、よく使われる歌詞だ。
気持ち悪い。そんな言葉に反吐が出る。
いつまでも真っ暗な夜の中にいてもいいのではないだろうか。
考え、悩み、ときには自らの人生を終わりにしたい。
そう思いながら私は暗闇の中から眩しいほどの光へと這い上がる。
ああ。やはり明けない夜などないのか。