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4/24/2025, 1:30:20 PM

巡り逢い……



昔の処刑場の跡地に美術博物館ができた。


そこにはプラネタリウムがあって


プラネタリウムを見たことがない田舎の娘二人が


ある夏に200円のチケットを買った。


天井を見上げる椅子に並んで腰掛けて


暗い部屋の中で二人は 星のお話を聞いた。





帰り道、Kちゃんは怒っていた。


「もう二度と Hちやん(私) とは来ないから」


私は黙っていた。


「いびきかくとか ありえんわ」


申し訳なさすぎて謝ることもできなかった。




Kちゃんとは その後も友達だった。


ご飯やカラオケには行ったが


二度とプラネタリウムには 行かなかった。




Kちゃんは 十年前の春に


本物の星になってしまった。




私がいつか星になったとき、


空のどこかで Kちゃんに逢えるだろうか…

4/16/2025, 8:29:59 PM

遠くの声…



私は人ごみが苦手だ。

買い物に行くだけで ひどく疲れる。



コミュ障?

そうかもしれない。

コミュ障に年齢は関係ない。



そんな中、先日のことだ。

同年代の異性と二時間二人きりに…



声が良い人だった。

頭がハゲていて、手で頭皮を触るのが癖のようだ。

彼が触ると、頭皮は少しシワを寄せ

そのシワを かわいいと思う自分がいる…


恋……???

いやいやいや 違うだろう。


思春期なら、恋していたかもしれないなぁ。

かわいいは、恋の理由にちゃんとなる。


そんなことを思うと、

心の自由だった頃が懐かしい。





遠い声の記憶……

上書きする勇気は

今の私には もう無い。

4/13/2025, 2:42:56 PM

ひとひら…



3歳くらいだったか…

一度だけ、ピアノを習ったことがある。



習った……?

大きなピアノの前の椅子に座った。

先生が隣に座って

彼女は やさしく言った。


「手は、タマゴを持つようなかたちにしなさい」


私は、タマゴを持つ自分を想像した。

そして、一生懸命に その手の形を作った。


「だから、タマゴを持つように!」

先生の声は だんだん大きくなった。

どこが悪いのか全く わからなかった。



ついに私は先生の気に入る形の手を作れなかった。

泣いたか泣かなかったか…

ピアノの記憶はそこで途切れている。



言の葉 ひとひら…

されど ひとひら…



私の手はとても小さかった。

大人がタマゴを持つのと、3歳の子が持つのとは違う。


タマゴを持つ以外の手のかたちを言ってくれていたら

今ごろ私は

ピアニストになっていたかもしれないのになぁ


……ないか。

4/13/2025, 4:55:51 AM

風景……




この春、私はアリのゲームを卒業した。


卒業なんていうと カッコいいけど

要するに ハマりすぎてやめざるを得なくなった。


目が覚めてすぐにアリの巣の様子を見に行く…


会社のトイレで突然決意した。

用を足しながらアリの巣の様子を見ようとして

…これは いけないと 思った。


その夜、日本人のアリ友達に短い手紙を書き

私は 南米のコロニーを去った。



私が居なくなっても

あの風景は スマホの中に存在する


私のアリの巣も、風景の一部として有ることだろう。


4/7/2025, 8:10:55 PM

フラワー…



繰り返し読んだ本があった。


その本は、保育園の棚にあった。


やさしいことをすると、花がひとつ咲く


そんな内容の話だった。



卒園の日、園児たちは一冊ずつ本をもらった。


私は、その本がとても好きだったし


その本を貰えると思い込んでいた。


でも、私の番が来て


選べる本の中に、その本は無かった。




それから一度も、あのお気に入りの本を読んでいない。


でも………と思う。


数十年たった今でも、本の内容はよく覚えている。


挿入された切り絵の美しさもそのままに




卒園式のあのとき、


私の花が、花さき山に咲いたのかもしれない。

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