小さな命。
一人で生きることのできないそれはただひたすらに流されていく。
嫌だ
どこに連れていくの
怖いよ
生まれた嫌悪や恐怖の感情を発する事もできず、暗い場所に閉じこめられた。
訳の分からぬままただ泣くしか無かった彼は触れた手のひらの感触を確かめる。
少しだけ柔らかく、そこかしらで香りがする。
生まれたての頃に嗅いだ香り。
初めて知覚したあの柔らかい色の場所で嗅いだ香り。
何かに包まれている?
そう疑問に思っていると周囲からちゃぷりちゃぷりと音がした。
自分が右に傾けば右にちゃぷり、反対に傾けば左にちゃぷり。
する事も無かった彼は自分の動きで反応する音に夢中になった。
愛を誓い合ってから10年。
健やかなる時も病める時も、確かに一緒に過ごした日々があった。
けれど何故だろう。
今目の前にいる人間を。
私の心を確かに傷つけ、それを意に介していないものを、なぜ愛さなければいけないのだろう。
違う、そんなこと考えてはいけない。
最近お互いの仕事が忙しくて、ようやく顔を合わせて食事ができると思って、張り切って食事を作った。
でも貴方は味がしない、嫌いな具材、と言って残し、ほとんど食べないまま席を立った。
私の前には一人では食べきれない量の冷め切った食事。
ごめんなさい別の料理を用意するね、と声をかけると、もう要らないと一言だけ返される。
後で隠れてコンビニでもいくのだろうか、既に私からは意識を外しリビングのブラウン管を見つめている。
どうして何も言ってくれないの。
私が悪いの、私がこんなこともできないから嫌になったの、家事も仕事もどうして出来ないの、どうして、ねぇ、私は貴方を
「ごめん」
いつのまにか目の前にいた貴方は椅子に座っている私を包み込んだ。
「違うんだ、その、苛々を君にぶつけてしまった…なんでも完璧にこなそうとする君に」
僕のために、となんでもしてくれる君に甘えて任せているけど辛い時は頼ってほしい。
優しく髪を撫でながらいう貴方の体温を感じながら私はゆっくりと喋る。
「貴方だって忙しいじゃない」「お互い様だよ。だから言ってね、分担しよう」
「嫌いな具材なんて知らない」「うん、だから今度から言うね。入れないでくれると嬉しい」
「私は薄味が好きなんだけど」「じゃあ鍋を二つ分用意しよう」
めんどくさい、とポツリと私が溢すと貴方が笑う気配を感じた。
「しょうがないじゃない」
これから私たちは何度だって同じことを繰り返すだろう。でも、その度に話してこんな事もあったね、って皺が増えた顔で笑い合えたら嬉しい。
(…って事もあったよね)
(だからあの時は仕事が忙しくって、塩と砂糖を間違えたの!)
(あ、トマトは感触が嫌いだから温めてね)
(ああああ、もうめんどくさい!)
どこまでも力強い太陽みたいな貴方。
湿っぽかった空気も、どんよりした時だってそんなの関係ない!ってくらいにカラッとその場を変えてしまえる。
貴方が笑ってくれるなら、ここでゲームオーバーなんて早すぎるだろ?
「貴方がいて、本当に良かった」
「えぇー?何、なんか言ったか?」
私の呟きなんて、貴方には届かないだろうけど。
「別に。暑苦しいなぁって」
どうかいつまでも輝いていて。
枯葉
ひらひらと舞い散る落ち葉をひたすらに箒で集めていく。
終わらない、いつまで経っても終わらない。
この桜並木の公園は春先には花を咲かせ賑わいを見せているが、生憎現在の季節は秋の為閑散としている。
こんなに生い茂っていたんですね。
お役目、ご苦労様でした。
そんな気分で箒を振るった。
今日にさよなら
まだ終わりたくないという気持ちを振り切り、静かに目を閉じる。
いやいや明日もあるんだと思考を断ち切り、心を鎮める。
数時間前にあった事柄が動画再生する。
いやだから今日は終わりだって言ってんだろ!
そうこうしていると時刻は0時を回り、強制的にタイムオーバーした。