「未来の記憶」
貴方と子供達が、芝生の上でじゃれ合って転がっている。
私は洗濯とか後の事を考えながらも、何だか泣けてくる位幸せで。
皆笑顔で、これを幸せと呼ばないなら、一体何を幸せと呼ぶのだろう?と思える程の、ただひたすら幸せな時間。
不安も、不満も、何もなく、ただ幸せだけを感じて。
もし私の記憶が全てこんな幸せな、絵画の様な世界なら。
私は悲しむ事も無かっただろう。
でも、時は流れる。良くも悪くも。
幸せな瞬間も、不幸な瞬間も、切り取って永遠に貼り付ける事は出来ない。
現在の、過去のこの記憶を、そのまま未来の記憶には出来ない。
もし、未来の記憶を幸せにしたいなら、兎に角今を幸せにするしかない。
その瞬間の積み重ねが、幸せな未来の記憶に繋がっていくから。
だから、その為に、私は今を懸命に生きる。
この幸せを失わない様に。
指の間から、この幸せが零れ落ちない様に。
「ココロ」
手に取れない。
目にも見えない。
色も、形も、触った感じも、全てわからない。
でも、確かに、ここに、私の中にある。
貴方の中にも、あの人の中にも。
全ての人の、生き物の中にある。
大切な、誰にも侵す事の出来ないもの。
誰にも変えられる事はなく、自分だけが育てられる、自分だけがコントロール出来るもの。
「星に願って」
もし、星に願って叶えられるなら、私が願いたい事は一つしかない。
もう一度、貴方に逢いたい。
あの頃は毎日が平凡で、明日という日が、今日の続きで自然に来ると思っていた。
変わり映えのない毎日だからこそ、それが幸せで、そんな日が続くと信じていた。
だから、出かけていく貴方に特別な声もかけていない。
伝えたい事もいっぱいあった筈なのに、「今」でなくてもいつでも言えるから、って、何一つ伝えられないまま。
でも、あの貴方は帰って来なかった。
突然知らされた訃報。
耳を疑ったし、理解が追いつかなかった。
いつも通り出かけ、いつも通り帰ってくると思っていた。ううん、そんな事も何も考えない程に当り前の日々だった。
でも、それはあの日に崩れて。
あの日から私は抜け殻で、一歩も進めず。
もがく事も、受け入れる事も出来ず。
毎日をどう過ごしていたかすら忘れてしまって、身動きがとれなくなった。
ただ、貴方の居ない日々を無為に過ごすだけ。
どうしたいとか、どうしようとか、そんな事も考えられず。
ただ、貴方に逢いたい。
逢いたい。愛しい。
……淋しい……悲しい……苦しい……
「君の背中」
あんなにちっちゃかった君が、いつの間にか大きくなって。
生まれたての頃は、ママの腕の中にすっぽりと収まっていたのに、いつの間にか大きくなって、収まり切らなくなってきた。
生まれた頃は、ホントにちっちゃくて、可愛くて。
こんなに可愛い物が生き物がこの世にいるものなのか?って思う位だった。
可愛くて、ギュッて抱きしめたいけど、ちっちゃくて壊れそうで、抱きしめるのも怖かった。
でも、今ではすっかりお姉さんになって。
そもそも抱っこさえあまりさせてくれなくなった。
淋しい様な、嬉しい様な。
君はどんな大人になるの?
ママやパパの背中を見て育つの?
そう思うと、君に対して恥ずかしいと思う様な事は出来ないと思うから、自然と背筋の伸びた、キチンとした生き方を選ぶ様になったよ。
君のおかげだね。
君の背中も大きくなって、いつかは親になる。
その時に、誇れる様な背中を見せられる様な大人に、親になって欲しいと思う。
ママやパパが、君に育てて貰った様に。
君も又、周りに育てられてく。
まだまだ道程は長いけど、誇れる背中になれるその日まで、頑張れ。
「遠く……」
いつからこんなに貴方との距離が離れてしまったのだろう?
ついこの前までは、ゼロ距離で、貴方の温もりを感じる事が出来ていた。
なのに今は、貴方が横に居ても、心の距離がこんなに遠い。
以前の様に、貴方を感じたい。
貴方の心に触れたい。
貴方の視線に射抜かれたい。
でも、それは今の私には、とても叶いそうもない願いで。
貴方の心は、私じゃない別の誰かを見ているから。
あなたが、とてつもなく遠い。
なのに、貴方は更に遠くへ行こうとしている。
戻りたい、と願っても叶わず。
もう一度、を願っても叶わず。
もう、どうしようもならない。
どうにも出来ない。
でも、私は貴方を諦められから、私はこの辛さを抱えたまま、ここで、ずっと貴方を想っている。
来る筈のない、「いつか」に縋りながら。