永遠に、ゆりかごの中にいられたらよかった。
でも、他人は言う。そこは、鳥かごだよ、と。
そこから飛び立たないといけない、と。
勝手なこと言いやがって。外の世界でなんて、生きていけるワケないのに。
しかし、ある日、ゆりかごは、ぐちゃぐちゃに破壊された。
オレは、飛び立ったんじゃない。ただ、追い出されて地を這うしかなかったんだ。
恋をしても、別にオレたちの友情は壊れなかった。
片想いをしてるオレをゆるしてくれた、おまえ。
ありがとう。本当に。
オレの恋が、友人に泥を塗るんじゃないかって、心配してたんだ。
オレのちっぽけで、ドロドロしてて、とても重い感情なんかに、おまえは汚せない。
向日葵が好きだ。なんだか、おまえみたいで。
太陽に向かって真っ直ぐに伸びる様が、美しい。
オレは、太陽から逃げ回ってるから、羨ましい。
夏の終わりに、枯れた向日葵畑を見ながら、そんなことを思った。
「おまえって、向日葵畑に消えそうだよな」
隣の恋人にそう言われて、オレは苦笑する。
中学生の頃の自分に、言いたいことがある。
おまえが、歯牙にもかけないクラスメイトの中に、将来恋人になる奴がいるって。
オレたちに、中学生の頃の思い出なんかない。
過去は変わらないけれど、これからは一緒に歩いて行ける。
それがいい。
欲しいものは、全部。なんだけど、“今、欲しいもの”は……アイスかな……。
オレは、深夜にコンビニへ向かう。
暑苦しい外から、涼しい店内へ入り、アイスクリームの売り場へ行った。
オレの家族は、年中アイスを食べるから。かつては冷凍庫にアイスが常備されていた。
カップ入りのバニラアイスを手に取り、レジへ。
会計を済ませ、足早に帰宅する。
そして、メッセージが届いていることに気付いた。
『起きてるか?』
恋人からだ。
『アイス食ってる』
『何味?』
『バニラ』
『おまえ、好きだな、バニラ』
オレの煙草は、ほんのりバニラの香りがするものだから、そんなことを言ったのだろう。
『うるせー』
アイスをひと掬いしながら、返信した。
今、欲しいものは、もうひとり分の煙草の香り。