私は特別にはなれない。あなたのせいで。
彼の恋人。私の恋敵。
いくら泥仕合を繰り広げたところで、運命は私を選ばないだろう。
それでも、これは、私が死ぬか、あなたが死ぬかの闘いだ。
負けたくない! 生きたい!
でも、ダメだったね。
私の首を絞める腕が、震えている。
愚かな子。
人がふたり。傘はひとつ。
「入れよ」と言われて、おとなしく傘に入った。
歩調を合わせて歩く。
「…………」
いつもなら。いつもなら、そう。オレがペラペラ喋るんだけど。
なんでか、何も言えないでいる。
そのまま、オレの家に着いて、ようやく口を開いた。
「上がってけ」と。
素直に提案を呑むおまえの右肩が濡れていて、オレは、堪らない気持ちになった。
どこまでも落ちていく。深く、深く。暗い、暗いところへ。
おまえがいない。近くにいない。隣にいない。傍にいない。
どこにいるかも分からない。
「置いて行かないで…………」
オレの泣き言も聴こえるはずがない。
光を奪われた世界には、一筋も灯りがないんだ。
ひとりじゃ立てないよ。助けてよ。
おまえがいないと、オレは…………。
未来予知? 可能性の分岐? なんだか知らないが、おまえにはオレの死が視えてたんだろ?
オレは、殺されるはずだったんだろ?!
どうして死なせてくれなかったんだよ。
アイツが拐われた、こんな現実にいるくらいなら、死んだ方がマシだ。
何もかもが、呪わしい。
オレは、また取り残されたのか。
目先の絶望で、人は死ねるんだぜ。
一年前は、こんなことになるとは思ってなかった。
これは、永劫の片想いだと思っていたから。
なんで、こんなろくでなしの手を取った?
“おまえが、俺じゃないから”
そう答えられたことを、昨日のことのように覚えている。
哲学的だ。それは、オレの領分だろうが。
全然違うふたりは、今日も一緒にいる。