哲学書が好きだ。永遠に答えの出ないことを考えるのが好き。
推理小説が嫌いだ。真実に辿り着いてしまうから。
オレとおまえは、なんで仲良くやれてんだろうな? まあ、おまえが善い奴だからか。
こんなにも相性が悪そうなのに、オレたちは、ふたりでいる。
そのことは、奇跡みたいで、深い傷を塞ぐ絆創膏みたいで、月の光のよう。
快晴でも曇りでもない空を見て、おまえのことを思い出した。
おまえは、曖昧なのが好きで。白黒はっきりさせるのが苦手だ。
全てを煙の中に隠しておきたいのに、嘘がつけないおまえは、やっぱりバカみたいに単純で複雑だから。
ずっと、目が離せない。目を離したら、煙みたいに消えそうだ。
紫陽花の花言葉は、無常。
かつて、オレの日常は奪われた。それを取り戻すことは、自分では出来ない。
「おまえは、オレの傍を離れて、真実を追い求めるのか?」
隣で眠っている恋人に問いかけた。
オレは、おまえとは行けないよ。
いつか、オレの日常が引き戻されても、もう前のままじゃない。オレには、おまえがいて。友人がいて。仲間がいる。
それが日常。こんな風に変わったオレを、両親が見たら、なんて言うだろう?
どうして、こんな単純な話を複雑怪奇にしちまうんだ、おまえは?
好きなら、好き。嫌いなら、嫌い。それでいいだろ。
なのに、おまえは、「大好き」だとか「嫌いたかった」とか「愛せない」とか「祟り」とか言う。
おまえの考えてる“愛の定義”とやらのことは知らねーが、なんでそんなに自罰的なんだ?
いつになったら、おまえは自分のことを赦せるんだよ?
この場所しか知らない。この街の外へ出たことがない。
オレの世界は、狭い。前は、もっと狭かったけど。家の中だけが、オレの居場所だった。
今は、大学の喫煙室とか、仕事場の仮眠室とか、おまえの部屋とか。そういう所が、自分のいていい場所だと感じる。
どうか、もう居場所を奪わないで。