真っ黒なインクを一滴、おまえに垂らしてしまった気がしている。
それが、オレの最大の罪。
おまえは、絶望的に綺麗だったから。オレのせいで、汚れてしまったように思う。
でも、こうも思うんだ。オレごときが、おまえを汚せるはずがないって。
オレという無理難題を解き続けるおまえは、きっと間違わない奴だからな。
18歳の女の子になりたいだなんて言っていたっけ。
でも、それって「理想の自分」じゃないよね。異性愛規範とエイジズムに縛られていただけ。
あなたの理想は、あなたがあなたであること。
あたしなんて、必要ないの。
自信を持って、彼が照らしてくれた道を歩いて行って。
あたしのことなんて、忘れてていいの。
「いってらっしゃい」と送り出した両親が、帰って来なかった男。それが、俺の特別な奴。
「さよなら」も言わずに去って行ったのが、おまえ。
そりゃあ、記憶の大半を消したら、俺のことも忘れるよな。
「バカ」と言えたら、よかったのに。でも、棘みたいに突き刺さる日々を送るおまえは、見てられなかった。だから、手を放してやるよ。
おまえの居場所になりたかった。
そんなものとは、縁遠いと思ってた。世界には、オレと両親と祖父母だけだったから。
恋は、物語に過ぎなかった。
オレの物語は、薄暗く、粘着質。だけど、おまえに彩られた物語。
最後まで、全うしたい物語だ。
眠る前には、自己嫌悪をして。眠っている時は、あの日の悪夢を見る。そして、夜夜中に目を覚ます。
「はぁ…………」
何故、まともな両親が行方不明になり、不良債権のオレはのうのうと生きているのか?
生きる意味なんてなかった。おまえがいなきゃ、ここに立ち続けることすら出来ない。
オレの抱えているものを、おまえはすぐに見付けてしまうから、そういう役割を押し付けている。
名探偵のおまえは、犯人のオレをゆるしてしまうから、祟られている。
いつか、違う配役になったなら、オレはおまえに何を伝えよう?