愛を免罪符にして、“何でも”する人間になれたら、それはそれで悪役としてはいいな、と思った。
実際は、自分の中の愛のなさに辟易しているが。
愛してるから、ずっとずっと縛り付けさせてくれよ。愛してるから、オレ以外見ないでくれよ。愛してるから、そんな善人でいないでくれよ。
言わない言葉は、ないのと同じ。
これからも、きっと言わないけど、オレが罪人であることに変わりはない。
どうしようもない後悔を抱えている。
おまえと出会ったこと。好きになってしまったこと。恋人になってもらったこと。隣にいること。
後悔しても仕方がないのに。
加害者は、加害者らしくしてればいい。
悲しい過去も、辛いことも、後悔も、全てを呑み込んで笑っていればいい。
悪役は、いつも笑ってるもんだろ?
どうしてこんなことになったんだっけ?
ふわふわと空中に浮いているオレは、風任せに流れた。
辿り着いたのは、墓場。ある墓石の前に、ひとりの男がいる。
ああ、そっか。これは、オレの墓だ。
晴れた空の下に、雨が一粒。それを、オレは拭ってやることが出来なくて、申し訳なく思う。
ひとりだけ残された家で、ぼーっとしている。
元は、5人で暮らしていた場所。
かつての団欒を、取り戻せたら、何をしよう?
「オレ、父さんの哲学書を全部読んだよ」とか、「ふたりの調理器具、多過ぎ」とか。言いたいことが色々ある。
生死も分からない両親。親戚の家へと身を寄せている祖父母。取り残されたオレ。
「オレ、好きな人がいるんだ」
そんなことを言えたなら。
家族しか信頼出来ない子供だったよ。
オレの世界は、狭く深く。それでよかった。
でも、あの日から、そういう子供のままではいられなくなったから。オレは、外へ出た。
世界は広大で、複雑で、途方もない。恐ろしい暗闇。
でも、おまえがオレを照らしてくれた。
だから、無理して大人ぶらなくてもよくなって、オレの息苦しさは、薄れたんだよ。
ありがとう。もう子供には戻れないけど、おまえと一緒なら、みっともなくても生きていけるよ。