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8/6/2025, 1:38:04 PM

っはぁ、はぁ
待ち合わせ場所まで、あともうちょっと。走ってきたせいで息が上がっている。午後の照りつける日差しは中々暑い。少し遅れそうかも。結構頑張って走ったけど、俺、体力こんなに落ちてたっけ?でも、絶対遅れちゃだめだ。なんてったって、今日は恋人の翔くんとで、でっ、デートだからだ!!

「ごめん翔くん!待った?」
「ふふ、大丈夫だよ。今来たばっかりだから」
カップルの典型的な会話っぽくなって少し恥ずかしいけど、翔くんは俺の好きなイケメンスマイルで微笑んでくれた。
「智くん、凄い息上がってるよ?大丈夫?」
「っ、あ、はは、ちょっとね、寝坊しちゃって」
そう言われて、俺の体力の無さに少し悲しくなる。
「あはは、そっか。じゃあ、早速行こっか」
ニコッと笑顔を向けられる。ドキドキと心臓の鼓動が早くなってしまう。
(こんなにいちいち反応してたら俺の心臓持たないぞ…)
ドギマギしながら翔くんの手をきゅっと握り、俺たちは歩き出した。

十分ぐらい歩いて、着いた場所は。
「じゃーん!水族館でーす」
「おお!すげぇ!俺、ここ行ってみたかったんだよ!」
この前雑誌で見て、翔くんにここ行ってみたいなって言ったの、覚えてくれてたんだ…。
「よかった。智くん、魚好きだもんね」
「うん!」
そして、俺たちは色んな魚を見た。巨大なジンベエザメやイルカ、ペンギンもいてびっくりした。
どんどん進んでいくと、クラゲが沢山いるコーナーになった。ふわふわと自由気ままに泳いでいる姿をずっと見ていたら、隣にいた翔くんがふとこっちを見た。見た、といってももう五分ぐらいずっと見られているような…。しびれを切らして俺は翔くんと向かい合った。
「ちょっと翔くん。さっきからなんで俺の方をずっと見てるのさ。魚を見ろよ、魚を」
「だって…魚よりも貴方の方が興味あるもの」
「はっ!?」
おま、お前はなんでそんな恥ずかしいセリフが言えるんだ!?どう考えても魚の方が面白いだろ…。
「智くんが魚を見てるときの目が、とても輝いてるんだ」
「っ、え?」
「興味深そうに魚を見てる貴方の目とか、仕草とか全てがキラキラして見えるんだ」
ぶわっと顔が赤くなる。そんな目で見てたんだ、俺のこと。嬉しいような恥ずかしいような気持ちがぐるぐる入り混じる。
「ふふ、顔が赤いよ?智くん。照れちゃうなんて、かーわいー」
「う、うるせぇっ!」
ニヤニヤしながらそんなこと言って…なんなんだよ翔くん…恥ずかしい。俺はぷいっとそっぽを向く。まだ笑い声が聞こえるなあ
「んもう、次、行くよ!」
強引に翔くんの手を引いて次のコーナーへと向かった。


「智くん、水族館楽しかったね」
翔くんと回っていたら時間なんてすぐ忘れてもう日が暮れそうだった。向かい合って俺も返事をする。
「うん。俺、今日めっちゃ楽しかった」
「よかった。智くんが嬉しそうで俺も嬉しいよ」
後ろから太陽が翔くんを照らして、逆光になっている。…顔があまり見えない。だから、視界いっぱいに翔くんを写せるようにぐっと近づく。
「ちょ、え、智くん?」
ほら、やっと見えた。
「んふふ、しょおくんの笑顔が見れて俺も嬉しい」
その瞬間、翔くんの顔がかあっと真っ赤になる。さっきの仕返しだ。ずっと口をパクパクしてて面白い。さっき翔くんが笑ってたのが少し分かった気がした。


歩き出して、今日待ち合わせした場所まで戻ってきた。そこからは帰る道が違うのでもうお別れの時間になってしまった。

「智くん、今日はありがとう」
「こちらこそだよ。また、で、デートしようね」
「ふふ。うん」
「本当に楽しかった」
「俺も最高に楽しかったよ」
「翔くん、また遊ぼうね」
「もちろん」
なんだか名残惜しくて、ずっと言葉を投げかける。今日が終わってほしくない。終わってもまた会えるよね?でも、もうそろそろ帰らなくては。しぶしぶ口を開く。
「もお、帰らなきゃね」
「そうだね…帰ろっか」
「じゃあ…」


――またね

8/5/2025, 2:21:07 PM

プシュッ
缶ビールを開け、豪快に喉に流し込む。人生の中でこのときが一番幸せなんじゃないかとつくづく思う。
と同時に、涙が一粒流れた。
―――そう、俺、失恋したんだ。


俺の好きな人は泡のような存在だった。儚く脆く、美しい。そんな人だった。
俺は五人でアイドルとしてやってきた。この十年、楽しいことも辛いこともたくさんあった。もう俺らも年で体が動かなくなってきた。そろそろ引け目だったのだろう。俺の好きな人―智くんは辞めたい、と言い出した。

メンバーの内の一人はなんで、どうして、原因は、と次々に問い詰めた。一人はずっと俯いたまま一言も喋らなかった。一人は慌てて問い詰めているメンバーを止めにかかっていた。そして、俺は。ただ呆然とその光景を見ているだけだった。
その後、何度も何度も話し合いを重ね、結果活動休止という措置を取った。正直、まだまだこの五人で続ける、いや、勝手に続くと思っていたから衝撃的だった。記者会見を開いたときには数多なる報道陣に質問を投げかけられ、答えを出して、を繰り返した。

活動休止、か。そう何度も心の中で呟く。そして十年間秘めていた気持ち、それが智くんへの恋心だった。この休止するというタイミングで俺は、もうこの恋はやめてしまおうと思った。
アイドルとしてデビューしてから、ずっと貴方の背中を追い続けた。でも、俺が触れそうになったらまた遠くへ行ってしまう。ムズムズして、欲しくて欲しくてたまらなかった。
貴方の舌っ足らずで呼ぶ俺の名前。しなやかにでも大胆に踊る体。赤ちゃんのような、ミルクのような甘い匂い。時折見せる、無邪気な笑顔。

俺は、どれだけ貴方に恋してきたと思う?

智くんに会いたい。この恋心とやらは、こんなにも大きな…君にとって邪魔なものだった。
俺も貴方みたいに泡のようになったらどこまで遠くへ行ってもついていけるんだろうな。


それでも貴方は消えていってしまうんだ。
泡のように。