だから、一人でいたい。
「私に近付く人にはいつも隣に誰か居て、最終的にはみんなその人の所に戻りました。だから、一人でいたいのです」
そう言って彼女は笑う。僕は手を差し伸べて「僕はそんなことしないさ」とどこかの王子にでもなったつもりで言った。
彼女は僕をじっと見つめてから、子どものいたずらを見つけた母親のような顔をしてその手を軽く払いのける。
「貴方もそうよ、伊吹さん。貴方既婚者でしょ?」
形の良い唇から背筋の凍るような声が出た。僕は抜かりなく外した筈の指輪をはめていた指を確認する。彼女は呆れた溜め息を吐く。それを聞いた瞬間、自分が鎌をかけられた事に気が付いた。
「もう騙されるのは懲り懲りなの」
そう言う彼女の目は、ゴミを見るようだった。僕は何も言えないまま、彼女の営む書店から出ていった。
日々家
澄んだ瞳
「もういいよ」そう言って笑う君は、何もかも諦めて手放したのに、雲一つ無い空のように澄んだ瞳をしていた。
――この時僕は初めて、見放されるという意味を知った。
日々家
嵐が来ようとも
心の中に嵐が来ようとも、それを共に怖がり寄り添い合えるような人などいないので、明るい話だけ流れる動画を眺めて眠気を待つ深夜二時。
日々家
お祭り
小さな頃、夏祭りには特別な空気があった。なぜかそこだけがキラキラして見えたのだ。
今はどうだろうか。まだ、私は幼い頃のように夏の空気を感じられるだろうか。
日々家
神様が舞い降りてきて、こう言った。
神様が居るなら、今すぐ降りてきて全世界の人間がハッとするような事を言ってくれ。
例えば「哀れな人間達よ。そなたらの声に応え、気温を正常に戻しましょう」とかさ。
「佐竹、次の行から読んでくれ」
「はい」
バカみたいな事を考るのを止め、俺は教科書の文字を音読し始めた。
「――神様が舞い降りてきて、こう言った……」
日々家