だから、一人でいたい。
「私に近付く人にはいつも隣に誰か居て、最終的にはみんなその人の所に戻りました。だから、一人でいたいのです」
そう言って彼女は笑う。僕は手を差し伸べて「僕はそんなことしないさ」とどこかの王子にでもなったつもりで言った。
彼女は僕をじっと見つめてから、子どものいたずらを見つけた母親のような顔をしてその手を軽く払いのける。
「貴方もそうよ、伊吹さん。貴方既婚者でしょ?」
形の良い唇から背筋の凍るような声が出た。僕は抜かりなく外した筈の指輪をはめていた指を確認する。彼女は呆れた溜め息を吐く。それを聞いた瞬間、自分が鎌をかけられた事に気が付いた。
「もう騙されるのは懲り懲りなの」
そう言う彼女の目は、ゴミを見るようだった。僕は何も言えないまま、彼女の営む書店から出ていった。
日々家
7/31/2024, 11:45:31 AM