ここ最近 ずっと雨が続いている
そのせいか 彼女は頭痛と精神不安定に陥っていた
"前"の彼女の引き継ぎだろうか。
今も彼女は辛そうに頭を抑え 唸りながら教室の隅で
蹲っていた。
大丈夫?と聞くのが 普通だろう
でも 聞いたところで彼女は きっと否定はできない。
彼女を余計に追い込むような野暮な言葉なんて 言えない。
つまり 俺にはどうする事もできない。
彼女の痛みを無くすことも
彼女の苦しみを分かち合うことすらも。
ただ傍にいてやるぐらいしか できなかった。
彼女は雨が好きだ。
雨の雫が葉を打つ音や 雨粒と傘が作る音
雨の埃っぽい匂い
雨で濡れた花
せつなそうなその雰囲気も。
そう言っていた。
でも 俺は嫌いだった。
だって 君があんまりにも 辛そうだから。
俺が 無力だって事を実感するから。
まだ 雨はやまない。
…彼女の唸りも。
いつまでも 降り止まない雨。
?
時々 "昔"を思い出す。
あの時の どうしようもない不安を。
未来が分からなくて 想像できなくて 怖くて。
家にも 学校にも 友達も 行き道も 帰り道も。
何処にも 居場所が 安らぐ場所が無くて。
でも 消える勇気は無くて。
でもね
「なぁ 今日は何する?」
「俺は お前と一緒なら なんでもいい。」
きっと "そこ"に未来はないかもしれないけど
「私も 君と一緒に居れるなら 何をしても楽しいよ。」
"ここ"には 大切な人が 大切な物語があるから。
心配しないで。
君の 私の未来を捨てないでね。
¿?
学校にも、家にも、外にも。
逃れられない、呪縛が、ある。
親が、友達、クラスメイトが、通りゆく人が。
どうしようもないくらいに怖くて、行き場がない。
こんなの、どうすれば正解だったの
¿?
透明な 水。
でも 私が持っている水は
汚くて 穢れていて 泥のような水。
みんなは そこまで酷くないのに。
どうして、私だけ
「大人ってどんな感じなのかな」
机にほおずえをつきながら 君はぽつんと置かれた
教卓を見ながら そう言った。
彼女は大人を知る前に 堕ちて行った。
勿論 彼女の副産物である俺も 大人なんぞ知らない。
でも 大人は狡い人が多い。
少なくとも 彼女の知っている大人は そういう人が多かった。
だから
「知ったら 後悔する」
って 半分脅しのような言葉で 言った。
君にはまだ 子供のままで居て欲しいから なんて。
大人になれば いつか自分を曲げてしまうだろうから。
大人になれば きっと"俺達"に蓋をするだろうから。
「ふーん」
あたかも 俺が知っている口振りで言ってしまった
せいだろうか 彼女は拗ね気味だった。
「俺は そのままのお前も好きだから
どうだっていいだろ」
どうか"そのまま"でいて欲しい。
そんな事を考えながら 君の頭をわやくちゃに撫でた。