警報のベルが鳴り響く
キケンキケン…近づくな!
キケンキケン…好きになるな!
それなのに彼女のいるあの人を
どんどん好きになってしまう
近づいていってしまう
一緒にご飯を食べに行って
くだらないことで笑って
その映画、俺も見たかったんだ
行こうよって…
どういうつもり?
警報のベルが鳴り響く
これ以上これ以上これ以上…
なのに…
その日?空いてるよと応えていたわたし
あぁ、たぶんもうすぐ
この世界に限界が来て
壊れてしまうね
警報のベルが大きく鳴り響く
これで最後これで最後
これで……最…後
(テーマ ベルの音)
彼が彼女に話しかける
わたしも隣にいるのに
見えていないみたい
昨日トリートメントした髪も
キラキラしたネイルも
新しく買った服も
何もかも意味がない
わたしってもしかして
年老いたロバなんじゃないかな
冷えてゆく心
だけどニコニコ笑ってしまう
張り裂けそうなくらい
悲しいのに
青空は無駄に美しく
世界中の誰もきっとわたしに
気づかない
…何でもないフリ?
得意だよ
(テーマ 何でもないフリ)
今は昔のお話です
ここには小さな家があって
西日の差す六畳間がありました
おばあちゃんは老眼鏡をかけてなお
見えないなぁって言いながら
なんとか糸を通し
ミシンをカタカタかけてました
雑巾を縫ったり
お友達に巾着を作ったり
孫娘のお洋服をつくったり
カタタッタタッタッタ
カタカッタ♪
ミシンは楽しそうに歌ってました
その音を聞きながら
いつも寝てばかりの白猫がおりました
陽射しはサラサラ
ミシンはカタカタ
猫はウトウト
そんな部屋の片隅で白猫と並んで
わたしは陽射しの浅瀬に
ユラユラと浸りながら
本を読んでいました
出来たわ
おばあちゃんが嬉しそうに
瞳を輝かせます
とても愛らしい笑顔で
その時、小さなわたしにも
年老いたおばあちゃんが
かつて可愛らしい娘だったことが
不意にわかったりしたのでした
祖母と猫とわたし
それぞれに過ごしながら
不思議な優しい時間が流れていた
小さな部屋のお話
(テーマ 部屋の片隅で)
お休みには
美味しいパンケーキを焼くから
ふたりで一緒に食べようね
カリカリベーコンに
あめ色に炒めた玉ねぎ
茹でたての緑のほうれん草を添えたら
立派な朝ごはんになるかしら?
2枚目はトロけるバターに
れんげ草の蜂蜜をたらーり垂らして
デザート風
ちょっぴり苦い
マンデリンを淹れましょう
日差しの良く入るリビングで
何気ない日々を笑い合って
おじいちゃんとおばあちゃんになっても
そんな風にいようね
(テーマ 愛情)
忘れないよ この街のこと
大通りから一本入った裏道
石畳に落ちる自分の影と
話しながら歩く午後
ポストにコトリと手紙を入れて
プロロロロ…と
郵便屋さんのバイクが走ってゆく
この街で
あなたと暮らしてゆきたかったな
銀杏並木が黄色の絨毯をひいて
もうじき冬がやってくる
誰も居ない公園のブランコを揺らして
さようなら、と
秋風が通り過ぎてゆくから
わたしも
あなたと過ごしたこの街を
通り過ぎてゆこうと思う
青く磨き上げた秋の空
街を冷たくけざやかに吹き抜ける
秋風になって
さようなら、と過ぎてゆく
(テーマ 秋風)