目が覚めた瞬間にあなたを思い出す日がどれくらい続いたか。
意識せずとも、日常のいろんなことでいとも簡単にあなたを思い出しては感情が揺さぶられる日々。
少しずつその頻度が少なくなって、心が凪いでいくことに安堵しているのに、足元がぐらつくような不安定さにも襲われる。
そうやって浮き沈みを経て、余計なところを削いで、綺麗な記憶として残していく過程を自分の内で見ているよう。
どれだけ足掻いても、すべてを忘れるなんてできないと知っている。それなら。
あのとき、ふたりでいられたから、ふたりとも生きていられた。
自分を保っていられた。
その端的な事実だけを、刻んで、糧にして。
また、あなたのいない世界を生きていく。
どんなふうに傘を差し出すかで、
それをどう受け入れるかで、
図らずとも相手との距離感がわかってしまう。
生じる機微をお互いに悟られぬよう、そっと息を潜める。
二人には狭い、ひとつの傘の中で。
(ここから落ちたら死ねるかな)
無意識に日常でそんなことばかり考えていた。
橋の下にある線路を覗いて、あのカチカチの石とレールに頭をぶつけたら、とか、
歩道橋の上から行き交う車を見て、今行けばはねられて轢かれて終わりかな、とか、
高い建物に登ればアスファルトの地面を見て、何階から落ちれば即死だろう、ここ?もっと上?とか、
そんな日々を繋ぎ止めていたのは、痛いのは嫌という、ただ臆病で、それゆえ死ぬ勇気の無い自分だった。
一瞬で死ねればいいけれど、どうやら人間はそんなに簡単には死ねないらしいし、下手に生き残ればそれこそ生き地獄だし、それに運良く死ねたとしても人に迷惑はかけたくない。自ら選んだ死で誰かの手を煩わせたくなかった。
痛いのが嫌だとか失敗した時の事だとか死んだ後の事まで考えてしまえるくらいに自分の脳はまだ機能しているのだと絶望した。
それすら考えることもできなくなってしまえれば、あと一歩を、この一歩を踏み出せるのに、と何度も何度も思った。
死ぬことが唯一の解決策だった。それしかなかった。