『胸の鼓動』
片付けをしていたら
昔の診断書が出てきた
いまも変わらずある
好きな人が近くにいる高鳴りとか
みんなの前で喋らないといけない緊張とか
そういうものは全く違う
ドクドクッと
数回乱れ
何もなかったように治まる
ときには繰り返されるそれに
もう慣れたつもりではいるけれど
自律できないことがもどかしくて
それでも
そんな不器用な身体が愛おしい
『踊るように』
小説の一文が
その後の生きる道筋になることがある
ずっと昔に読んだ
『誰よりもうまく踊る』
というフレーズが
急に浮かぶときは
わたしはうまく踊れているか?
自分を見直すときだと
なにかに伝えられているように感じる
『貝殻』
海の近くで育った
わたしの記憶の始まりの頃
モンペにエプロン、姉さんかぶりをした
小柄なおばあちゃん達が
たくさんのシジミを
小刀を使い身と殻に分けるのを
2つのザルに身と殻が溜まっていく、
その速さに釘付けになり
ずっとしゃがんでみていた。
目の前にじっと座り込んでいたちいさな子は
おばあちゃん達からみたらどうだったんだろう?
作業の邪魔ではなかったか、
大人になったいま思う
と同時に
大人になった私の目に
おばあちゃんと小さな女の子の
姿はとても愛おしく見えるだろう
『些細なことでも』
心が弱っているときは
些細な言葉が引っかかる
美容院で
色を決めきれなくて悩んでいると
「時間もないので切りながら考えましょう」
の、
「時間もないので」が引っかかり
施術中ずっともやもや
不快に感じたわけではなく
少し時間が経った今
何故それが引っかかったのか
わからない
けれど、もう行かないかも、とは思っている
数日経っても鏡を見るたび
違和感を覚える
『心の灯火』
大切に点けた火は
大切に心の奥に
わたしだけがわかる明るさだけど
何気ない言葉でも
吹き付けられて消えるのが怖いから
わたしの中に灯る火があることは
誰にも悟られないように
不規則に揺らぐ火を
両手でそっと包むように