私は小さい頃から、
将来の夢というものがしっくりこなかった
そもそも、
大人になるということが想像できなかったのだ
いつから大人かも分からないし、
あまり意味のないことだと思った。
それよりも、いまできること/できないことに興味があった
小学生のとき、
電車にのるときはいつも大人と一緒に乗っていた。
私は乗り換えも降りる駅も、ましてや目的場所も
わからないから、
大人についていくことしかできなかった
ひとりで乗り換えができるようになったとき
ひとりで場所を調べて、そこまで行けるようになったとき
大人になったなぁと思った
今の私は、月に行ってみたい
それは、いまできないことだからだ。
生きているうちに、できることになるのだろうか、
リビングの机の上に置かれたミモザが揺れるとき
カーテンも穏やかに揺れて朝日を運んでくる
何か夢を見ていたようでウトウトしていたけれど
ハニートーストの香りが時刻を知らせた
大きくあくびをしたら
メガネをかけたまま寝てしまったことに気づいた
ああ、もうすっかり春だなあ
春は人をほのかに狂わせる
仕事中に自分を押し殺しすぎて、
休みの日になると、自分を極限まで解放したくなる
真っ赤なネイルを塗って、高いヒールを履いたり
昆虫のたくさん描いてあるシャツを着たり
大声で歌い出したり、
使うか分からない謎の置物を買ったり…
法に触れない限り、
何やってもいいだろうという気持ちになってくる
そうしてまた月曜の朝を迎えて
正気か狂気か分からないほどに
マニュアル通りの人間となる
でも、まあ満足はしているのかもしれない、意外と
あれ、どこいったっけ、、
定位置を決めておこうと、大掃除のときに思って、
たしかどっかにまとめて置いたはずなんだけど
一式見つからないから、どっかにしまい込んだっけか
前は確かこの辺にあったはずで、、
誰かに譲ったんだっけ?
あれ?待てよ、
そういえばこの間もういらないからって
売りに出したかも、そんな気がする
あっそうだ!思ったより高値で売れなかったんだった
ま、あんなもん、もう使うことないからね
テニスのラケットとか靴とかなんて、邪魔なだけだし
そっかあ、じゃあもうテニスできないじゃんね、
まあ3年も使ってなかったってことは、
もう使わないってことか
びりびりヒリヒリ…
痺れるほどの透明