Seaside cafe with cloudy sky

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8/20/2024, 5:02:21 PM

【さよならを言う前に】

◀◀【鏡】からの続きです◀◀

―― 59、60……約一分経過。そろそろ声を掛けてもいい頃だろう……ハグされたまま心の中でカウントしていたアランは、撫でていたひよこ頭から手を下ろしてエルンストの背を叩いた。
「エルンスト、あのときも僕たち、こんな風にハグまでしたっけ?」
からかい気味に耳もとで言うと相手は微かに身じろぎ、夢から目覚めたような風情できょとんと首を巡らせた。そして。
「……え、…… ―― わあっ!!」
間近で見たアランに驚き、次いでそのアランをガッシリと己の腕の中に収めていたという事実にも仰天して、飛び退くように身体を離すとアランへ平謝りに謝った。今度は首まで真っ赤っかにして。
「すみません、アラン……じゃなかった、ジュノーさん、その、あまりにも嬉しかったので、つい……気づいたら……本当に、失礼しました!ごめんなさい!!」
まるでドッキリ番組で色仕掛けのイタズラに見事嵌められた、可哀想な犠牲者のようなコミカルなリアクション。途中まで堪えていたが、ついにアランは肩を震わせて忍び笑いを盛大に漏らしてしまった。
「フフ……アランで構わないよ、エルンスト……アハハハ!……君ってまったく!」
素直で、邪気がなくて、一生懸命で ―― 見てて飽きない、憎めない子だ、まったく。まいったね ――
笑いすぎて座ったまま上半身をロビーチェアに倒れ込ませ、なかなか治まらない発作をやり過ごす。涙まで浮かべてた ―― 拭おうとして掛けていた眼鏡を外すと、今まで目をパチクリさせて笑い転げるアランをどうしたものかと、おとなしく見守っていたエルンストだったが、おずおずと覗き込んできてこう言った。
「あの……オリエンテーションでは眼鏡じゃなかったですよね。だから初めはあなただと気づかなかったんです。……その、髪型も…………なんというか、今よりもすっきりと整えていらっしゃったし……さらにスーツ姿で、まさにエリート然としたあなたしか記憶になかったので……」
鎮まりかけていた笑いがまた込み上げてきた。
「エルンスト ―― 君の奥ゆかしい皮肉、気に入ったよ。ハハハハッ!」
「 ―――― 失言でした!すみません!」
本気ですまなそうに謝るエルンストがまたまたツボに入って止まらない。いい加減苦しくなってきた ……ああけれど、こんなに気持ちよく笑ったのは久しぶりだなあ ――
栗色のボサボサ髪を掻き上げてひとしきり笑ったアランだったが、徐々に落ち着きを取り戻すとはたと本来の目的を思い出し、つかの間フリーズしてポツリとつぶやいた。
「そうだ、僕は旅をしていて……ランチを取りに行こうとしていた最中だったんだ……」
それなのにどうして僕はいま、空きっ腹のまま病院の一画で、一人大いに抱腹絶倒しているんだろう?それも、奇しくも再会したエルンスト・ヴィルケのおかげでだ。―― きっと素敵な旅になる ―― この予感どおり、素敵で不思議な旅がはじまりつつあるんだろうか ―― ?

さよならを言う前に、もう少し彼と過ごしていたいかな ―― 一抹の物寂しさを覚えてふとそんなことを考えていると、エルンストがひょいと、ふたたびアランを覗き込んで申し出てきた。
「昼食、まだだったんですね。僕もです。ご馳走しますから一緒に食べに行きましょう!いいところを知ってます!」

▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶

8/19/2024, 1:17:48 PM

【空模様さよならを言う前に】

coming soon !

8/18/2024, 4:08:08 PM

【鏡】

◀◀【病室】からの続きです◀◀

尻切れトンボになっていた話がアランの不意打ちの問いによってふたたび引き戻された。急に話題が変わりはしたがヴィルケは落ち着いたもので、まだ赤味の残る顔でうなづいて確かな口調で淀みなく答えた。
「はい、二年ほど前に親会社のバルマーが主催した、関連会社の新人社員のためのオリエンテーションに参加したんです。その時の講師がアラン・ジュノーさん、あなたでした。……僕のこと、憶えていませんか?」
自分を見つめるヴィルケのまなざしが不安そうに曇る。そんな顔をされては、憶えていないなんてとても言えそうにない……なんとか思い出すんだ、アラン!自分に発破をかけるとアランはうつ向きがちに腕を組み、片手の親指を口もとにあてた沈思黙考のポーズで当時の記憶を懸命にしぼり出していった。
―― 二年前……あれは僕が初めて担当したオリエンテーション・ワークショップだったっけ…… たしか二十人程度の小規模クラスだったかな…… ―― そうだ、そのメンバーの中に筋のいい子が一人いたのを思い出した。手間のかかるバルマーのグループシステムを活用してデータをまとめる課題を出したとき、時間はかかったけど一番最初に正解を出したのがその子で……エクセレントなその子のスキルを僕は絶讃して…………そうだ!
思い出した!
「 ―― お見事、エルンスト。君は出来る人だ!」
その瞬間の記憶が脳裡に鮮やかによみがえった。エルンスト・ヴィルケ ―― 彼だったのか……腕組みを解いたアランは感慨深かい気持ちでヴィルケに向き直り、その時彼に捧げた称賛のセリフを再現して言ってみせた。ようやく完璧に思い出してくれたアランに感極まったのか、不安をすっかり払拭したヴィルケは満面に笑顔を輝かせて身を乗り出し、
「そうです、僕がそのエルンストです!そしてさっきみたいに、僕をブラボー!と褒め称えてくれたんですよ、アラン!」
よほど嬉しかったのだろう。はずんだ声で喜びを伝えると、次の瞬間、ヴィルケは情熱的なハグでアランの身体を抱き締めていた。
突然の予期せぬ出来事。なにが起こったのか、追憶の旅から戻ったばかりのアランの脳ではすぐに把握できずにいた。が、目線の先にあった窓をふとよく見るとそこに、自分を抱き竦めるヴィルケの若い背中が鏡のごとく映し出されているのを確認し、我が身の置かれた奇妙な状況をしっかりと理解することができた。
(……よく壁に、僕の頭を打ちつけさせなかったもんだ……)
ヴィルケのハグの力加減の良さに感心しながら、アランも彼のひよこ頭へ手をやり、幼い子をあやすような手つきでそっと撫でてやった。

▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶

8/17/2024, 12:01:49 PM

【いつまでも捨てられないもの鏡】

coming soon !

8/16/2024, 12:53:39 PM

【誇らしさいつまでも捨てられないもの】

coming soon !

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