好きな子は
幸いなことに
クラスで前の席に座ってて
いつも僕は
彼女の髪を見てる
恥ずかしくて
目合わせてなんて話せないし
顔見るだけで赤面するから
髪見るのが精一杯
黒板見るフリして
彼女の長い髪を見る
まっすぐな細い栗色の髪
何から何まで
きれいなんだな
窓から入る風になびいて
さらさら
そっと机に突っ伏すと
彼女の髪が
さらさら
僕の手の甲を撫でた
これで最後
ってわかってたら
もっと
笑ってればよかった
やさしくすればよかった
照れずにありがとうって
言えばよかった
素直にごめんねって
言えばよかった
ほんとにほんとの
正直な気持ちを
しっかり伝えればよかった
かっこつけたり
見栄張ったり
意地になったり
そんなこと
めちゃくちゃくだらないことだった
今頃学習しても
もう遅いんだな
後の祭りかあ
君の名前は
初めて聞く名前で
それだけで
特別な感じがした
凛々しい花が
すっくと立っているような
そんな佇まいが
なおさら聖域みたいにしていた
君の名前は
汚れた世界を洗う呪文
簡単には呼べないんだ
昔付き合っていた彼女のアパートはけっこうなボロアパートで、もう少しすれば逆に昭和遺産として貴重がられそうな建物だった。
内装も全くリフォームされていないようだったし、彼女も古い家具や雑貨が好きなようで、そういったもので家の中を飾っていたから、遊びに行くたびにタイムスリップしたような不思議な気分になった。
特に雨の日は、辺りの静けさと暗さを際立たせるかのようにレトロなシェードのついた電球が重い明るさを放っていて、異空間に飛んできたようにしか思えなかった。
その日は朝からずっと雨が降っていた。
春の雨らしい、温かで軽やかな雨だった。
昼食を食べたあとの眠気でぼんやりしながらソファにもたれかかっていると、彼女がコーヒーを淹れてきてくれた。
ソファの前に置かれた小さなテーブルに静かにマグカップを置きながら、彼女は言った。
「ベランダのね、屋根が、ブルーシートみたいなやつでしょ」
重い瞼を引き上げながら目を凝らして、ガラス戸の向こうのベランダを見てみると、確かにそのようだ。
屋根がわりにブルーシートが張ってあるらしい。
“ブルーシートみたいなやつ”でなくてブルーシートそのものだ。
「あの屋根にね、雨が落ちる音が好きなの。パタ、パタ、パタって音がして」
そう言って、彼女はうれしそうに笑って、耳をすませて雨音を聴いているようだった。
僕も一緒になって耳をすませてみた。
分厚いブルーシートに落ちる雨の音は、見た目はちっともロマンチックじゃないはずなのに、なんだかやさしい音楽のように聴こえた。
まるで催眠術にでもかかったかのように、すぐに寝落ちしてしまったように思う。
今でもときどき、あの部屋で聴いた雨音を思い出す。
やっぱりあれはどこかの異空間だったんじゃないだろうか、あんな雨音はもうどこに行っても聴くことができない。
特効薬を教えるね
元気が出ないときは
頭の中のおしゃべりに
てきとうなメロディをつけて
歌ってみるんだ
へんちくりんな
踊りをつけるとなおよし
心が動くまま
体が動くまま
歌ってごらん
踊ってごらん
ちょっとおかしい人になった気分で
そしたらね!
ゆううつがビビって
どこかへ飛んで行くから
だんだん自分で笑えてくるから