ここは、心の中。
別に比喩表現とか、そんなんじゃなくて、正真正銘心の中。
私の心の中はとても暗い。そして、何も無い。地面も、水も、風も、植物もない。
だけど、私の目には映像が浮かんでる。
前にいるのは男と女。何か、言い争いをしているみたい。でも、話している内容は分からない。
私は叫んだ。理由は分からないけど、なんだか泣きたくなった。
でも、目の前にいるふたりは私に見向きもしない。
暗がりの中、私はただ叫ぶことしか出来なかった。
午後3時。ちょうどこの時間は、下の階から紅茶の匂いが香る時間だ。
いつものように、部屋から出て匂いを嗅ぐ。今日はなんだかいつもと違う匂いがする。最近フルーツ系が多かったし、今日は違うのかな。
私と同居している親友が、大の紅茶好きで、よく本格的な方法で紅茶を作ってるのを見た事がある。っていうか、時間を見計らって見に行ってるんだけど。
そうすれば、勝手に親友は紅茶について色々語ってくれるから。私はその時間が好きなのだ。
今日も、親友がいるはずのキッチンに行って、親友が紅茶を入れる姿を見守る。
すると、茶葉をポットに入れていた親友がこっちをふりかえって、急に現れた私に驚きもせず、ただ私を見てニッコリと笑った。
「居たんだ。今日はね、アールグレイにしたんだ。爽やかな味で、とてもおいしいんだよ。飲んでみる?」
「うん。あ、ミルクティーとかにできる?」
「出来るよ。イギリスとかでは主流の飲み方らしいから」
へぇ、と私は思わず声を漏らす。
親友が作ってくれる紅茶からは、いつも違う匂いだけど、でもどこか、落ち着かせるような匂いがするんだ。
私が機嫌の悪い時、喧嘩をした時、落ち込んでいる時の合言葉、あなたは覚えてますか?
合言葉というより、あなたがいつも言う言葉。
私はいつもそれに元気づけられて、今まで嫌だったこと全部忘れてしまう。
本当に、単純な女だと思う。
でも、私は貴方が言うその言葉が好きだから、いつも期待してしまう。
そんな愛言葉は、
「キミがいるから頑張れるんだよ」
「私たち友達でしょ?」
その言葉に、何度困ったことか。
友達というのは曖昧な定義しかないから、私はいつもこう思う。友達って、なんだろうと。
「友達……うん。そうだね」
とりあえず、笑って誤魔化す。これでいい。関係が壊れることの方が、私にとっては最悪なことだから。
……相手にこう思うのって、きっと相手のことを友達に思ってない証拠かもね。
あなたにとって友達って、なに?
貴方は、私よりも友達を作るのが上手いから、直ぐに私から離れていってしまうきがした。
その予想は当たっていた。
私とは相手してくれなくなり、私はひとりぼっちになった。
あの時、貴方が別の所へ行ってしまう時に私が心の中で叫んだ言葉を、声に出してくれれば、貴方は振り返ってくれたのだろうか。
「行かないで」