前後左右を囲まれて、逃げ場は無い。
けれど怖くはなかった。
私には仲間がいるから。
仲間がひとり、隙をついて逃げ去った。
仲間がひとり、倒れて動かなくなった。
仲間がひとり、命乞いをした。
仲間は、いなくなった。
途切れていく意識の中で、わたしはただ独りだった。
人間の行動は訳がわからないと言うと、
友人は「どのあたりが?」と聞いてきた。
まず国境というのが理解できない。
渡り鳥からすれば無意味で無駄である。
人種も理解できない。
何がどう違うというのだ。
平和も理解出来ない。
手を繋いでもすぐに殴り合い殺し合う。
そこまで言うと、友人はケタケタと笑って言った。
「人間の事わかってるじゃないか」
やっぱり私には、理解出来ない。
家とやらを引っ越すらしい。
私たち猫は家につく。
だから私は、この家に残るつもりだった。
けれど、人間たちに四角い箱に詰められた。
「ありがとう、ごめんね」
良い人に拾われるんだよ。
そう言い残して、人間たちは何処かへ行った。
小鳥を拾った。
人懐こいので、飼われていた鳥だったんだろう。
私は寒さで死んでしまわないように、
小鳥を両手で包み込んで家へと急いだ。
動物を飼っていたのは、何年前の事だっただろう。
捨てられていたダンボールの中にいた犬を、自分が面倒を見るからという条件で飼うことを許された。
5年後に天寿を迎えたその犬は、幸せだったんだろうか。幸せだったと願いたい。
家に着いて、そっと手の中の小鳥を見る。
無垢なその瞳に、今の私はどう映っているのだろう。
家にあった古い虫籠に小鳥を入れて、
部屋の片隅に置いた。
翌朝、小鳥は冷たくなって横たわっていた。
ああ、君は幸せだったかい?それとも……
人は、死ぬと空に昇るそうだ。
知り合いの友人がそう言っていた。
人間から「鳥」と呼ばれている私たちは、
普段は空を飛んでいる。
ならば私たちが、死ねば地上に落ちるのも
当たり前のことなのだろう。
そう言うと、友人は違うよと言った。
人間は空に逝くけどな、
オレたちは地球の真ん中に逝くんだと。
なるほどそれは面白い。
人間と私たちは、逆さまということなのだな。