幸せか、そうじゃないか。
そのどちらが選んでと言われれば人は普通、
幸せを選ぶだろう。
理由なんて言うまでもない。
でも私か先生どちらかしか
幸せになれないというのなら、
私は喜んで身を引く。
先生は私の愛するたった1人の尊いひとなのだ。
このひとの幸せはきっと、
私の幸せでもある。
先生はとてもおっちょこちょいである。
いつもポンコツで、USBを電子黒板に指したまま、
なんてしょっちゅうだし。
プリントは授業終わりに回収だと
何度も言うのに、結局毎回忘れて号令した後に
「ごめん出席番号順にもってきて!」
の声かけを聞かなかった週はないくらいわすれっぽい。
イタズラなんて絶対引っかからないと高を括っておいて
毎回きっちり引っかかっていたり、
さわやかに「おはよう!」と挨拶した次の瞬間段差に
つまづいていたり。
今までに先生ほどおっちょこちょいな人を
私は見たことがない。
でも知っている。
裏ではすごくしっかり者で、優しいんだということを。
実験室の片付けに不備があって、
実験助手の先生からお怒りの文書が届いた時。
先生を引っ掛けようと
黒板消しを挟むイタズラを仕掛けているところを
隣の校舎から怖い先生に目撃されて、
1時間くどくど怒鳴られた時。
次の授業の時には
もうちょっと俺が言えばよかったね、とか
あそこまで言わんくてもねえ、とか
すごく何気なさそうに言って、
必ず私たちを庇ってくれていた。
裏で頭を下げていたのを偶然見てしまったけれど、
きっとそれまでも同じようにしてくれていたのだろう。
もともと面白くておっちょこちょいな先生が
好きだったけれど、
そんな一面を見てもっと大好きになった。
ねえ先生、恋愛的に好きと思っているけれど、
それよりも第一に人生の先輩として、
先生のことを尊敬しています。
見つめられると
先生の瞳はどんな宝石よりもうつくしい。
教室の蛍光灯の下でも、
体育祭の濃い青の空の下でも、
放課後の夕焼けの下でも。
それぞれ違う雰囲気を纏っている。
だからついつい、
授業中も先生と話す時もその瞳に見とれてしまう。
あまりにも見つめているからと
先生が目線を合わせてきて、
それがまたうつくしくて尊くて。
ちょっと待って???
もしかして、先生が私のこと見つめてる???
そう気づくと急に頬が熱い。
「海月、耳まで赤いぞー?」
もう、先生分かっててやってるでしょ!
教師なんだから色んな人と話すのは当たり前。
頭ではそう分かっていたつもりだった。
でも。
先生が他の生徒や先生と
楽しそうに談笑しているのを見て。
なんだかどろどろとした気持ちが押し寄せてきた。
私にも
あの子みたいにコミュ力があったら、
あの子みたいに明るかったら、
あの子みたいに要領が良かったら、
あの子みたいに可愛かったら、、、
やっぱりそう考えてしまう。
そんなことしても意味ないのに、
私自身が傷つくだけなのに。
けれどもやっぱり気持ちが押えきれなくて、
私は今日もないものねだり。
「これ見て、めっちゃ面白くない??」
いやべつに、そこまでじゃない?
てかなんならどこが面白いのかわかんない。
本当の私なんてこんなもんだ。
でももちろんそんなことは言わない、口が裂けても。
その代わりに作り笑いで爆笑してるふりをする。
でもこれで心の内を見透かされたことはない。
マスクがあるからバレてないだけなんじゃないの?
そう思うでしょ。
だけど違うの、だってこれは物心ついた時からの
私に染み付いた癖だから。
作り笑いに関してはかんぺきだよ!
こんなの好きじゃない、でも。
だってそうでもしないと生きて来れなかったんだもの。
作り笑いをする度に感情を隠していくのってね、
紙で自分を覆うみたいな感覚に似てる。
1枚1枚は薄くてすぐに破けちゃうけど、
何回も何回も続ければ金属みたいに固くなる。
気づいた頃にはもう遅くて、
感情の出し方が分からない
私みたいな人間が完成するよ!!!
だって今だって猫かぶってるからね!!!