「おはよう!」
そう言って声をかけてきたのは、隣のクラスの鈴奈。
毎日ぼっちで、体を上手く動かせない僕に声をかけてくれる。
そんな彼女が居る人生を生きられている僕はものすごく幸せだ。
学校が終わったら寄り道して、一緒に出かける、それがいつもの日常だ。
僕は昔、病気になってしまって、体を上手く動かせない。でも、できることは自分でしてる。
別に、病気になったから嫌だと思うこともなく、平凡に過ごしていた。
「そろそろ起きなよ」
いつもの寄り道先で、いきなりそんなことを言われた。どういう意味だろう、僕にはよく分からない。
「起きる?どういうこと?」
「君、本当に分からないの?」
「え?」
「ここがどこなのか、君は分からないの?」
「ここはどこって……寄り道先でしょ?」
「そういう意味じゃないの。」
「じゃあどういう意味なの?」
すると、いきなり鈴奈に腕を掴まれた。
連れて行かれたのは、高い階段。落ちたら死んでしまうだろうと思う階段だった。
ドンッ!!
背中に痛みが走ったような気がした。
だけど、後ろを向くことは出来なかった。
なぜなら、僕は階段から落ちてしまっているから。
鈴奈に押されて落ちた。
「鈴奈……?なんで…?」
「良かった。これで戻れるね。」
ドンッ!!
僕は、地面に衝突してしまった。
「今日、午後6時32分、熊本で男子高校生が階段から落ちたと救急隊に連絡がありました。
男子高校生は、意識不明のまま病院に運ばれましたが、運ばれている最中に亡くなりました。
連絡をしたのは、一緒に居た同じ学校の女子生徒だったそうです。」
パチッ
「陽翔……!」
僕は、階段から落ちたはずなのに、目を開けば病院に居た。
「3週間前、熊本の男子高校生、吉永陽翔さんが、交通事故にあい、意識不明で運ばれました。
現在も意識不明のままで、ご両親は、「元気な息子の姿を早くみたい」と話していました。」
僕は3週間前に事故にあって、意識不明だったらしい。
鈴奈は、
夢の中の人だったらしい。
「君は昔から泣き虫だ」
そんな言葉を口にしたのは、生まれた時からの幼馴染の渋谷叶夢。
僕と彼女は同い年で、保育園、幼稚園、小学校とずっと一緒だった。
あいつの言うように、僕は昔から泣き虫だった。
泣いては叶夢に慰められてを繰り返してた記憶がある。
そんな僕は今、泣いている。
でも、いつもとは違う涙だった。
それは叶夢も気付いていて、いつもは慰めるのに、今日は慰めることはしなかった。
僕が今泣いているのは、叶夢が東京の高校に行くから。
同じ高校に入学しようと話していた叶夢が、なぜ東京の高校に行くのか、それは父親の転勤だった。
家族で東京に引っ越すことになり、僕の幼馴染は遠くに行ってしまう。
それを聞いて泣いているところだ。
「僕も東京に行く」
「バカ?」
「本気。叶夢が居ない人生なんて、僕は要らない」
「君は昔から泣き虫だ。私が引っ越す日は必ず駅まで送ってね。
その時は、泣かないで」
引っ越し当日
約束通り、叶夢を駅まで送る。
僕は泣きたかった。
でも、叶夢と泣かないと約束したから、笑顔で送った。
送ったあとの僕は、どうなったのか自分じゃ分からなかった。母親に
「あんた、泣いてるよ?」
なんて言葉を言われるまでは
数年後
僕は、あれから変わらず泣き虫に育ってしまった。
「はい、すみません
ごめんなさい、やり直します
僕はこの会社で使えないんですか…?
分かりました、辞めさせてください
仕事も…なくて……家族も減った…
叶夢……いつ会える?…
待ってるからな……
泣いてても許してくれよ……」
「君は昔から泣き虫だ」
目の前に居たのは、あの時より少し成長した笑顔の、
あいつだった。
俺の名前は竹中颯太。現在、2児の父親だ。
上の子は女の子でもう小1になる。
下の子は男の子で、5歳だ。
そんな俺だが、2日後、なんと結婚記念日だ。
結婚したのは、もう6年も前になるのか……
と考えていると、妻の紗由莉に話しかけられた。
「ねぇ、2日後、結婚記念日ね。今年は何しようかしら?」
「今年は子供達も一緒に何かするのはどう?」
「いいわね、2人とも、何したい?」
「ぼく、ゆうえんちにいきたい!」
「わたしも!」
「遊園地か…懐かしいな笑」
「私達もよく行ったわね笑」
「よし、行くか!」
そうして、俺達は遊園地に行くことになった。
当日。
「おとうさん、ぼく、あれのりたい!」
「あ、観覧車…!」
「わたしものりたい!」
そして、今に至る。
最後に観覧車に乗ったのは、
6年前の妻と結婚前のデートだった。
俺はここで告白したんだ。
「ぼく、しょうらいおねえちゃんとけっこんする!」
「え……?」
「あら……!」
「なにいってるの!きょうだいはけっこんできないんだよ!」
「え……そんな…」
6年前の今日、ここでひとつの夫婦が誕生日した。
そして、6年後の今日。
子供が増え、楽しく会話をする家庭が誕生した。
「きょうだいのたからもの」
1ねん2くみ はるのかなと
ぼくには、たいせつなたからものがあります。
それは、ぼくがいつももっている、このえんぴつです。
このえんぴつは、におにいちゃんがくれたものです。
おにいちゃんが
「これは、おばあちゃんからもらったたいせつなえんぴつだから、ずっとたいせつにもってたんだ。これ、あげる」
といって、ぼくにくれました。
そのあと、ぼくとおとうさんとおかあさんが帰ったあと、おにいちゃんはなくなってしまいました。
もしもおにいちゃんがこのえんぴつをくれなかったら、ぼくはおにいちゃんからもらうものがなかったことになります。
なので、このえんぴつは、ぼくにとってさいこうのおにいちゃんからもらった、さいこうのたからものです。
これからも、このえんぴつを、たいせつにしていきたいです。
そして、ぼくもおにいちゃんみたいに、これからうまれてくるいもうとが、いちねんせいになったら
「これは、きょうだいのたいせつなもの」
とおしえて、たくしたいとおもいます。
「きょうだいのたからもの」
「あ……もう25か…」
小学生してるって思ってたらいつの間にか中学生になってて、中学生してるって思ってたらいつの間にか高校生になってた。
そして、高校生してるって思ってたら、いつの間にか25歳になっていた。
俺はこの歳になってようやく、時の流れが早いことに気がついた。
小学生の時は、明日が早く来ないかなとか、夏休みまだかなとか思ってたのに、今ではもう明日だ、夏休みなんてない、と思ぅようになった。
もし俺に子供が出来たら、
想い出は大切なんだ。
って教えたい。まぁ、彼女すらいないけど…笑
そんな俺にも、たくさんの想い出がある。
その想い出をどうやってしまっていくかが大切だ。
ちゃんとしまえてないと、覚えている想い出はほんのちょっとだけになってしまう。
俺は
ちゃんとしまえているようだ。