『ルール』8/109
まず最初に、ふたりで決めたこと。
自分の気持ちは隠さず全部話すこと。
夜ご飯は何が食べたい気分なのか、
週末にはどこに行きたいのか。
お互いのどこが好きなのか、
どんな所をなおしてほしいのか。
何があっても、それだけは守るようにしてた。
けどあなたは中々話してくれなかった。
私はそれにちょっと怒っちゃって、少し間があいて。
なんで、そんな事言うの?
ふたりで決めたルールじゃない。
それを破ったあなたが悪いのに。
規則は守る為にあるのに。守らなきゃいけないのに。
息苦しい、ついていけない、なんて。
『今日の心模様』8/101
ずっとどしゃ降りだった私のこころに、
ちいさな太陽ができました。
雨でぬれた私のからだを、
ぽかぽかあたためてくれました。
しだいにあたまの上のくろい雲はしろくなって、
それもずいぶん少なくなりました。
かわりに太陽がかおを見せてくれるようになって、
私たちは、いっぱいおしゃべりをしました。
がっこうのこと、ともだちのこと。
しょうらいのゆめ、おかあさんのおせっきょう。
いつしか傘はいらなくなっていました。
あしたもきっといい天気。
『たとえ間違いだったとしても』13/93
ああ…また、やっちゃった。
いつからだろ、こんな夜が増えたの。
最初は大丈夫だったんだけどなあ…
段々彼が構ってくれなくなってきたっていうか。
バイトとかレポート提出とかに忙しいんだって。
前まではその間を縫って会いに来てくれたのにね。
あの言葉もウソだったのかな?
淋しい思いはさせない、ってハグまでしてくれたのに。
その言葉を信じてここまで生きてきたんだよ?
あなたの為に私は何だってしてきたんだよ?
短い方が良いって言うから伸ばしてた髪も切ったし、
あなたの好きなミニスカートだって毎回履いてるよ?
ねえ、これじゃ私だけが頑張ってるみたい。
私だけがあなたのことを愛してるみたい。
ねえ、ねえ、彼くん?
もっと私のことを見てよ、ね?
ほら、見てよ、私、かわいいでしょ?愛おしいでしょ?
ねえ、彼くん。
こんなかわいそうなわたしをもっとみてよ。
『雫』15/80
ぽつり、ぽつり。
ひとり、ぽつり。
じっとしたをみていたら、
いつしかぼくのかおがみえていた。
そのかおもみえたり、にじんだり。
ぼくはわるくなんかなくて、
ぜんぶあのこがわるいんだ。
ぽつり、ぽつり。
いまも、ぽつり。
あの頃は俺もガキだったから、
ずっと知らないフリしてたんだ。
水鏡に映ってたのは俺じゃなくて、
アイツの悲しむ顔が見えて苦しかったんだ。
ぽつり、ぽつり。
しずく、ぽつり。
もう、零すものか。
『何もいらない』12/65
できるなら、もっと望みたかった。
他のすべてを捨ててでも。
でも、もう、いいの。これ以上は。
お金も、時間も、地位も、将来も、幸せも。
ぜんぶ、あなたに満たされちゃったから。
あなたと過ごしたすべてが、私の生きる道になる。
だから、もう、いいの。
長い髪をなびかせながら彼女は歩き出す。
彼の温もりを手に感じながら。
しかし、それは、少しずつ、けれど着実に、
彼女の手から消えていく。
今日は雨天、いや、雨のち晴れだったろうか。