銀時計

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4/18/2024, 1:47:22 PM

『無色の世界』6/44
目を開ければ、また退屈な色が私を迎える。
ただでさえ無機質な空間に舞い散る灰を吸いながら、カーテンを開ける。
太陽は鈍く輝き、くすんだヴェールが地に下りる。
黒い風になびく木々は梢まで色を失った。
鉛のような水を進む魚の鱗ももはや岩石と化した。
遥か彼方で白煙が昇りやがて薄く雲を覆う。
絶えず降り注ぐ灰に塗りつぶされたこの世界。
カーテンを閉めて、ひとつ、灰を吐き出す。
帰ろう。灰も光も白も黒も存在しない、無色の世界へ。
目を閉じれば、また退屈な色が私を迎えるだろう。

3/30/2024, 10:31:04 PM

『何気ないふり』17/38
あ、まただ。
いま、目、合ったよね。
教室の端と端、視線がぶつかる。
お互いに別々のグループで喋ってるけど、それでも。
それに、合わせた目はすぐに逸れて、
傍から見たらじれったいと思うかもしれないけど。
私たちはそれでいいんだ。
あ、また。

3/10/2024, 11:18:01 AM

『愛と平和』10/21
見渡す限り灰色の世界。
砂埃は絶えず私を取り囲み晴れることはない。
木が焼け付く匂い、火薬の匂い。
これが私の暮らす、明らかに異常な世界。
でも、これから先生まれる子たちにとっては?
5秒後の命さえ保証できないこの世界が、
この子たちの瞳にはどう映るだろう?
その瞳を決して、決して汚さぬように。
私たちが与えられる最大限の愛を以て。

2/20/2024, 10:56:05 AM

『同情』11/11
光から闇へ。底知れぬ淵へ。
何処までも落ちていく私を繋ぎ止める。
光から下ろされるその手は、私の眼に眩く焼き付いた。
手に伝わる感触が本物か確かめるように、私はその手を強く握り返す。
刹那、私は悟る。私は未だ落ち続けている。
骨張った手の甲、枝のような腕、染み付いた痣。
その手は私を光へ引き上げる希望ではなかった。
光を背にしたその身体が私に影を落とす。
逆光。
恨めしい程に明るい光が眼に射し込む。
途端に、その黒い影法師が気味の悪い物に見えた。
そして手を振り解こうとして、気付く。
私はその手を自分の方へ強く引き込む。
次第に、その身体に光が射していく。
黒い鎧が剥がれ落ち、中身が顕になっていく。
初めて、君の顔が見えた。
君の震える身体を包みながら、私は決意する。
何があっても君の手を離さないことを。

私たちは、何処までも堕ちていく。
君の眼から落ちる雫よりも速く。