紅茶、ティーよりも昔なつかしい、どことなく品のある響き。
一口含んで、スチームを吐いたらじんわりと心に沁みる、香りと温かさ。
「ちょっと、じっとしててよ」
「えー」
もう何度目かの注意にも懲りず、ウエストを測ってる最中なのに君はまた左右に体を揺らしている。
「でもほんとにドレス借りなくてよかった の?」
「いいんだって、きらきらしすぎてるのは好きじゃない。」
「そうだとは思った・・・よし、終わったよ」
彼女の腰に回していた腕を解いてメジャーを畳む。仕事で作るのとはまた違う。
大切に、丁寧に・・・。
「できたよ」
一週間かけて作り上げたドレス。純白ではなく、やや温かみを帯びた白の生地に、首周りと袖のレースには小さなダイヤモンドとパールをあしらった。
「じゃーん」
振り向くと白いドレスを纏った彼女が両腕を広げている。思わず吐息を漏らしそうになるのを飲み込んで彼女を鏡の前に連れていく。「ちょっと座りなさい」
「はーい」
ぶらぶら足を動かしながらこぐまのように鏡をじっと見ている彼女のサイドの髪を編み込んで後ろで纏め、仕上げにミント色のリボンをつける。
「こういうの上手だねえ」
「妹がちっちゃい頃やってたからね、
はい、いいよ」
おわった、と肩をぽんと押すと麗らかな日が差し込むフローリングを舞台に彼女はくるくる舞いはじめる。
風を受けて膨らむレースのカーテンが目に入った。
「ベールがあればもっといいんだけどな」
「こう?」
はっとした。
「どうしたの?」
「ウエスト計り直したいだけだよ」
『カーテン』
塾が終わって、9時。
がらがらのローカル線の一番端の席に座って詰めていた息を1つ吐く。
「勉強したなあ。」
スマホは触らない。目を閉じる。
程よい痺れが脳細胞を伝って、えもいわれぬ
快感が巡っていくのを感じる。
晩ごはんのメニューなんだろな、
帰ったらもうちょっとだけ化学やるか。
ひとりじめしたい9p.m. 束の間の休息。
久しぶりに思い出した。
中3の頃転校してきてちょっとだけ隣の席だった君のことを思い出した。
とにかく裏表がなくて、いつも無邪気な笑顔で笑いかけてくれて、自分に真剣で、でも繊細なところがあるから学校がつらいって泣いてたときもあったよね。
わたしは強くもないし優しくもなかったけど
毎日辛いって泣いて、でも明日を頑張ろうとする君を見てるとなぜかはじめて、この子守りたいっておもったんだ。
あれから2年。わたしの方も色々あって毎日
泣いていた君の気持ちがちょっとわかるようになりました。
落ち着いて少し将来のことを考える余裕が出てきた今、久しぶりに君のことを思い出しました。
君に言われて嬉しかったことを思い出しました。
正確に言うと人伝に聞いた話だけど、きみ、
友達に「◯◯(わたしの名前)ってなに言っても褒めてくれるんだ〜!」ってこぼしてたらしいね。
とっても嬉しかったよ。
最近自分を守ることに一生懸命で、他人に敵意を持ったり、嫉妬したり、やさしくできてなかった。
こんな私を頼って甘えてくれた君のことを思い出すと人に優しくいたいなと思う。
誰かがつらい時に、寄りかかれる大樹のような人になりたいなと思う。
久々に私の記憶に現れてくれてありがとね。
ご飯しっかり食べるんだよ。