名もなきもの

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彼女が何かを思い出したように彼の肩を叩く。

彼は優しげに目を少し見開いて彼女に顔を向ける。

彼女が片手を顔のそばにもたげて、みみうちの準備をする。

彼は気付いて体を傾け、20センチの差を埋める。

彼女の口元がわずかに動く。

2人はゼロ距離の世界にいる。

彼が体を戻し、大きく開いた目は驚いたように、彼の反応を見守る彼女の目を刹那見つめる。

次の瞬間2人の顔が近づいて、彼と彼女はいたずらが成功した子供みたく、顔をほころばせた。


              「ささやき」

4/22/2025, 9:10:09 AM