学生の頃恋人がいたが、憧れの先輩が忘れられないと3ヶ月で振られた。
それからずっと恋人ができず7年間をすごした。
その後職場の年上の女性と1年間付き合ったが、ずっと怒られてばかりの私。
挙句の果てに突然連絡が途絶えて自然消滅。
ああもうずっと私はこの先独りだ、そう思っていた時とある人と出会った。
今の妻である。
奇跡のような出会い。
運命としか言えないくらい居心地がいい関係。
こんな奇跡、これから先また起こるのだろうか。
奇跡をもう一度実感する日は再び来るのだろうか。
いや、来ない。
来なくていい。
今がすでに毎日奇跡のように幸せな日々だ。
このままずっと妻と穏やかに過ごせたら...。
他に何を望むことがあるだろう。
運命とか奇跡とか、あまり信じていなかった私だが
信じてみるのもいいかもしれない。
最近釣りにはまっている。
だが日中は仕事で休みの日は混雑しているので
私と妻は大抵平日の夜に釣りをする。
仕事が終えて夜釣り。
2人でぼんやりウキを眺める。
釣りの間はほとんど言葉を交わさない。
黄昏時。沈みゆく夕陽となかなか沈まぬウキ。
会話のない静かな時間も心地いい。
さて、すっかり月が昇り夜がきた。
そろそろ納竿。
ウキは今日も沈まない。
あっという間にこんな時間。
時計は深夜をまわっている。
あわただしくいそがしい日々。
目まぐるしく毎日を過ごし、たまに何のためにがむしゃらに走り続けてきたのか分からなくなる。
きっと明日も変わらぬ日常。
似たような出来事の繰り返しだ。
そろそろ寝るか、と寝室に向かうと妻はぐっすり眠っていた。
今日も一日家のこと、私のこと、仕事などよくやったのだろう。
私は妻のために何かできているだろうか。
当たり前に過ごしてきたときこそが大事な時間なのではないだろうか。
そんなことを考えながら今日一日に思いを馳せる。
いつもの日常。
変わらぬ日常。
朝起きて2人でコーヒーを飲み朝食を食べる。
ありがとう、おかえりなさい、ただいま、いつも欠かさず交わす言葉。
きっと明日も愛おしい日だ。
ふと重みを感じて目を覚ました。
暗い天井。カーテンからは微かに街灯の灯りが漏れている。
静寂に包まれた部屋。
そばで眠る妻の規則正しい寝息だけが聞こえてくる。
視線を少し下げると飼い猫のミミが腹の上に座っていた。
なるほど、重みを感じるわけだ。
頭を撫でてやると先程まで静まりかえっていた部屋にごろごろと甘えた声が響いた。
なんて心地いい穏やかな時間だろう。
こんなにゆったりと過ごすのは久しぶりかもしれない。
そう思いながら再び目を閉じた。
ゆっくりと身体が、意識が沈んでいくのがわかる。
ミミが眠ったのか、それとも私が眠ってしまいもう何も聞こえなくなったのか。
部屋が再び静寂に包まれた。