一ノ瀬

Open App
7/10/2024, 2:04:33 PM

『 目が覚めると 』


青い空に、青い海。
まさにテレビやSNSで見る綺麗な海が、目一杯に映し出される。

「綺麗だね」

と、ポツリ呟き一緒に海を見ていたのは彼氏の優斗。

「優斗」

「ん、なに?」

「あ、えっと…来て良かったね」

そう言うと、彼は少し間を置いたあと「うん」と笑顔いっぱいの顔で私に見せた。

彼は私よりも先に海へと入った。
楽しそうな彼、私もと、優斗を追いかけると

「だめ!!!」

楽しげな彼の表情とは一変し、険しい表情で私に放つ。
困惑した私に、彼はどこか険しくもそして、どこか悲しい表情を浮かべていた。

なんでそんな悲しい顔をしているの?

「ねぇなんで…私もそっちに行きたい!」

私の問いに、彼は首を横に振るだけ。
近付こうとしても、手を伸ばせば伸ばすほど、彼はどんどん遠ざかっていった。

やがて彼は私に背を向ける。
波が彼をどんどん呑み込んでいく。


「優斗!!!」


彼の名を呼ぶ、そしたら彼は振り返って


「…………」


そこでプツリと、テレビの電源が消えるように真っ暗になった。


目が覚めると、私は病院にいた。

すぐに状況は把握した。なぜ自分がここにいるのかを。


彼氏と付き合って二年記念日だった。

一ヶ月前から二人で予定を立てていた二泊三日の熱海旅行。
同棲中の私達は、時間に遅れないようにと準備は念入りに前々日からきちんと準備をしていた。

予定通り熱海に着き、旅館へ荷物を置きその日は旅館の近くの街へと買い物へ、次の日は海を満喫する予定だった。

が、しかしその海で事件は起こる。

優斗と私は海を楽しんだ後、二人ともお腹が空いていたので、海の家で席を確保し、私が焼きそばを買いに出ている時に何やらザワザワと人が騒ぎ出したのだ。

振り返ると海の方で子供が一人溺れている光景を目にした。

助けないと、でもどうすれば…そう思った時に一人の男性が海へと飛び込んだ。
その男性は紛れもなく優斗だった。
ライフ・セイバーさん達も優斗の後を追い、海へと救助に入った。

が、しかし助かったのは子供だけだった。

子供はライフ・セイバーさん達が抱えていて、そこには優斗の姿はなかった。

救急車や、救助隊が呼ばれる。

私が助けないと、優斗を助けないとそう思ってしまって。
周りの手を振りほどき、私は海に飛び込んだ。
もう無我夢中だった。でも結果、なんの意味もなかった。

むしろこんな状態になってしまって、沢山周りの人に迷惑をかけてしまっただろう。


あの夢で彼は私にこういった


「俺を見つけてくれてありがとう」と。


どういうことだろうと思ったがすぐに分かった。


実は私がもう限界に達していた所に、彼が居たと。
全然覚えてはいないが、私は彼の手を掴んでいたのだと。

私が今ここにいるのは何故?
私が思うに、彼がきっと見つけてくれたお礼に、神様に最後のお願いでもしたのだろう。


”彼女を助けて”とか。


「そんなの要らないのになぁ…」


当分、海のように枯れることの無い涙を、これからたくさん流すだろう。


でも彼に言いたい


「ありがとう」と。


そっちに行くのはまだ先になるけど、必ず伝えるよ。

7/9/2024, 10:26:28 AM

『 私の当たり前 』

当たり前なことってなんだろう?

「当たり前でしょ」 「当たり前なんだから」

と、よく聞くが当たり前ってなんだろう?
そう改めて考えてみると難しい。

だって当たり前なことって、ふとした行動を褒められたり
感謝されたり。無意識にやっていることが多い。

いつもの事を褒められた時に「こんなの当たり前だよ」って本心で言っているわけだから。

でも、その無意識のうちにしている行動で褒められたり感謝されるってことは、その人にとっては凄いと思ったことだから、とても嬉しいことだ。

褒められるためにやるのは、それはまた違うと思う。

そう私は思う。だから、自分には出来ない、その人にとっては当たり前なことにはたくさん感謝していきたい。


それが私の当たり前になるように、今日も生きる。

7/8/2024, 2:30:11 PM

『 街の明かり 』


「 じゃあ、またね。」


「 うん、じゃあまた。」


街の時計台の下で、繋いでいた手を離して彼氏と分かれる。
また明日学校で会えるのに、ちょっぴり寂しくて。
でも笑顔で、時々振り返ってくれる彼の背中を見送るのが、私は好きだった。

家が反対方向だから、仕方の無いことだけど。時々思う。
「 家が一緒の方向ならいいのに 」って
この時計台で分かれることなく、お互いの家の近くまで他愛のない話をしながら、さっきみたいに一緒に手を繋いで、、
なんて叶わない願いを心のどこかで願ってしまう。


日が落ちて、街のあらゆるところで明かりが灯される。


そういえば、日が短くなった。

夏の終わりが近い。

気付けば彼の背中はとうに見えなくなっていて、少しの寂しさを胸に私は家路に着いた。