花咲いて
最近ずっと寝転がってばかりだ。
夏休みで学校がないから8月の最後まで
雨に降られたくないしね
ある日、いつもどおりのベッドの上
母が叩き起こしに来た
曰く、これから毎朝7時までには起きなさいと
曰く、窓際の花瓶に毎日水やりをしなさいと
曰く、曰く、曰く、と
幾らかの曰くを聞いていくうちに
母はなにかの花の蕾を貰ったらしい
何故かは一旦置いといて
蕾は緑色
きれいな花じゃないだろうと思った。
一日、二日、三日……
案外、早く咲いた
案外、ピンクっぽくてかわいい
ちょっとだけ嫉妬した
空を見上げて心に浮かんだこと
まだ夜が明ける前の薄紫
ほんのりと山の縁が白んでくる
縁側に座ってまだ薄ら寒い風を髪に受ける
案外、猫は早起なもので
畳の部屋から襖を抉じ開けながら出て来る
にあうと一鳴きして縁側から草履の上へ跳ぶ
ふと、猫の毛並みがキラリと輝る
顔を上げると何時の間にやら
すっかり水色になった空が見えた
よく目を凝らすと薄暗い雲が遠くに有る
今日は笠を持つように彼奴等に言っておこう
と心に留めた
終わりにしよう
「ね、別れよ」
ポツリと
テレビを見ながら、まるで独り言のように
「じぶんさ、結構、考えたんだよ」
もうすぐ終わりの近いバラエティ番組を聞きながら
隣りに座った其の人を盗み見る
「急、でもないんだよ」
じっと、まだ若い芸人が弄られている様を観ながら
「やっぱ、間違い、だったと思う、から」
声だけ聴けば、泣きそうで、可哀想だと思うぐらいに
声が震えている。
「別れよう、ほんの少し、時間が必要だ」
其の人の顔は有り得ない程に無表情で凍てついてて
感情なんて母親のお腹に忘れてきたかの様だった
「ね、もう、終わろう。」
こちらを、振り向く。
「終わりにしよう」
目が覚めると
途端に真白な刺激が眼ん中に突き刺さった
頭はズキンズキンと鳴っている
ツンとした病院の消毒の臭い
周囲からくぐもった話し声が聴こえてくる
そこで俺は耳に包帯が有るのに気付いた
其処だけじゃなく身体中
ぐるぐるぐると巻かれている
何があったのか
未だ真白な刺激が遺る眼で
どうにか話している奴共を一目見ようと
肘から先が失くなった腕で
身体を起こした
街の灯り
所々洋装をした人々が行き交う
街灯に降り積もる雪は
ほんのりと灯を反射する
客寄せの声が飛び交う祭の夜
広場では神輿を担ぐ屈強な男共
星の様な雑沓に身を置いて
街の灯と喧騒を楽しむ