狭い部屋
壁も床も全部白い。
この間よりかは幾分と広いけど
まだ手足が十分に広げられない。
立ち上がって伸びをすることも叶わない。
ガチャッ
玄関の開いた音がした。
いい子にしてた?
柔らかな笑みでこちらを見据える。
僕、まだあのこと許してないからね。
だから、
くらくらする。
彼の匂いだろうか
彼の言葉が入ってこない。
…………いい子にしててね?
声が、こえが
「うん。」
失恋
今日こそは。
いつもより早起きして。
いつもより可愛くメイクして。
いつもよりふわふわに髪を巻く。
カバンの中には
試行錯誤してやっと出来上がった
少し歪なチョコレイト。
何度も鏡を見て
いつもよりとびっきりに可愛い
じぶんを確かめる。
いつの間にか、学校について
なんか、今日可愛いね って
いつの間にか、放課後になって
渡さなきゃって探してた。
「……のっ!付き合ってくださいっ!!」
彼女は、顔を真っ赤にして
「えと…俺、でいいの?」
彼も、顔を真っ赤にして
ふとカバンの中のものに目を落とす。
キレイなラッピングをしてる。
「ださ……」
もうどうでもいいや。
友達が待ってる
早く帰ろう。
正直
正直の頭に神宿る
家の人たちはこれを
とてもとても信じていた。
僕もすっかり信じてる。
でも
どうしても
信じているのは
とても難しい。
僕と話すとき
みんな
一瞬だけ嫌な顔をする。
そしたら
何事もなかったように
話し出す。
神様が宿る正直な子。
みんなの模範で賢い子。
僕はとっくに
正直じゃなかったみたい。
梅雨
窓の外はしとしとと雨が降り続いている。
激しくなるのと比例して
頭が痛くなる。
いつまでも降り止まない雨は
まるで何かを洗い流しているかのようだった。
このジメジメは多分
排気ガスのようなソレだろう。
手を伸ばして、空を切る手を見る。
私の醜い想いも
全部洗い流してくれたらいいのに。
半袖
5月の、蒸し暑い日
自転車に乗って
暗い雲の下を横切る。
ポツポツと当たる
大きな雨粒が
ペダルを漕ぐ足を催促させる。
腕に張り付いたシャツが
湿った空気を直に伝える。
手前を横切った小学生たちが
高い声を出してはしゃいでいる。
傘を持たずに走っていく。
彼らを見て
夏服で来ればよかった
なんて思った。